子ども兵(少年兵)
誘拐され、襲撃を強要された。そしてぼくは、お母さんの腕を切り落とした…。
チャールズ君(仮名)、21歳。ウガンダ共和国グル県
僕には家族がいて普通に暮らしていました。ある日、お母さんが隣村まで用事で出かけました。僕はお母さんの帰りが待ち切れず、隣村に迎えに行きました。その途中で、銃をもった兵士たちに囲まれ、反政府軍の部隊に連れて行かれたのです。数日してからでした。大人の兵士たちは、僕を村まで連れてくると、お母さんを前にしてこう命令しました。
『この女を殺せ』
僕のお母さんを銃の先でこづきました。怖くて怖くて仕方がありませんでした。もちろん、『そんなことできない』といいました。そうすると、今度は"なた"を持たされ、『それなら、片腕を切り落とせ!そうしなければお前も、この女も殺す』僕はお母さんが大好きでした。恐ろしくて腕がふるえ、頭の中が真っ白になりました。とにかく、お母さんも僕も、命だけは助けてほしいと思いました。
僕は手渡された"なた"をお母さんの腕に何度もふりおろしました。手首から下が落ちました。そのあと棒を渡され、兵士は「お母さんを殴れ」と命令しました。僕はお母さんを棒で殴りました。お母さんは気を失いましたが命は助かりました。僕はそのまま兵士に部隊へ連れていかれ、3年間兵士として戦っていました。
目次
1.子ども兵(少年兵)って?
正規、非正規を問わず、あらゆる軍隊に所属する18歳未満の子どものこと
■ 子ども兵には戦闘に直接関わるもの以外の兵士(非戦闘員)も含まれます。そこには、少年だけでなく、少女も含まれています。
■ 子ども兵はアジア、アフリカ、中東、中南米などの紛争地域で現在も確認されており、世界で少なくとも25万人以上いると言われています。
子ども兵が徴兵され使用された国(2004年春~2007年秋まで)
出典:(UN News (2008) “Some 250,000 children worldwide recruited to fight in wars – UN official)
詳しくは、コチラ(Child Soldiers Map 2004 to October 2007)
2.どうして子どもが兵士になるの?
[ 1 ] みずから志願して兵士になる場合
・失業率が高い貧困地域では、就職先として入隊します。
・兵士になると最低限の衣食住が確保できると期待します。
・食糧を奪ったり、人々からお金をゆすり取るための銃がほしくて入隊します。
・身内を殺され、その復讐のために兵士になることもあります。
[ 2 ] 誘拐されて、強制的に兵士にさせられる場合
政府軍や反政府軍勢力が、たまたま街で見かけた子どもを連れ去ったり、小さな町や学校に侵入して数十人を強引に誘拐したりします。子どもは純粋で、洗脳しやすく扱いやすいからです。冒頭の少年兵のように、まず親や友人を殺させたり、四肢を切り落とさせたりして、他人を殺すことへの抵抗をなくし、コントロールしていきます。また、麻薬やアルコールを用いて洗脳していきます。
3.子ども兵(少年兵)の役割は?
■ 敵対勢力のスパイや情報伝達
■ 地雷原を歩かされ、地雷除去装置として使われる
■ 最前列で行進させられ、弾よけとして使われる
■ 武器や食料のなど重い荷物運び
■ 少女兵の場合、性的虐待や強制結婚をさせられる
子どもは従順で洗脳されやすく、小柄で機敏です。強制的に徴兵が可能で、すぐに”補充”ができるため、消耗品として扱われます。また、規律や上官の命令に反したり任務を怠る子どもにたいしては、他の子どもへの見せしめとして、厳しい体罰、体の一部の切断、場合によっては死刑にする軍隊もあり、他の子どもに罰を与える役目を担わせることもあります。(写真:子ども兵士2003年 コンゴ民主共和国 カロンゲ地区)
4.国際的な取り組みは?
兵士になると、子どもが安心して遊び、学ぶ生活を送ることは不可能となります。また、大人の兵士に比べ、精神的にも肉体的にも未熟で従順なため、非人道的な扱いを受けやすくなります。子どもたちが軍隊に入り、搾取されることを防ぐために、以下のことが法律で禁止されています。
■ 国際刑事裁判所規定では、政府、非政府のあらゆる軍隊が15歳未満の子どもたちに入隊するように勧めたり、実戦に参加させたりすることは「戦争犯罪」とすることが定められています。
■ 国際労働機関条約は「18歳未満の子どもを無理やり軍に入隊させたり、義務的に入隊させて紛争で戦わせたりすること」を児童労働の最悪の形態の一つに挙げ、加盟国に対してこのような最悪の形態の児童労働の禁止及び撤廃を確保するために即時かつ包括的な措置をとることを要請しています。
■ そして以上の条約を受けて、2000年に採択されたのが、「子どもの権利条約」の追加議定書である「武力紛争への子どもの関与に関する子どもの権利条約の選択議定書」です。この議定書には武力衝突に直接加わることが法的に認められる年齢を15歳から18歳に引き上げ、18歳未満の子どもの強制徴兵を禁止し、国家以外の勢力にも適用されることが明示されました。この議定書は2007年までに119カ国が批准しています 。
5.元子ども兵が抱える問題~ウガンダの場合~
■ 被害者であり、加害者でもある元子ども兵
[ 1 ] 身体的、精神的トラウマ
「人殺し」の現場に居合わせる、自ら人を殺める、四肢切断を強要される、食料を略奪する、レイプされるなど、反政府軍で受けた身体的および精神的な傷の深さは深刻です。帰還後も、悪夢にうなされたり、精神的に不安定になりやすいという特性が見られます。
[ 2 ] 地域コミュニティーからの偏見や差別
除隊後に受ける「元LRA」「人殺し」「LRAの子どもを持つ女」というコミュニティーからの差別は深刻です。地域住民からの「人殺しの仲間だから、この村から出て行け」といった言葉を浴びせかけられるようないじめを受けることがあります。
[ 3 ] 基本的な教育を受けていない
軍事訓練以外の教育を全く受けておらず、基本的な読み書きができないことに加え、子ども時代を軍隊という特別な環境で過ごした結果、「権力さえあれば何でも手に入る」といった暴力的な思考が身についていたり、感情をうまく人に伝えるというコミュニケーション力が不足しています。そのため、再び暴力に走るといった状況が少なくありません。このような背景の中、一部の地域では、帰還後の貧しい生活に耐え切れず、自ら再び軍隊に志願する子どももいます。
6.元子ども兵の声
「ポール(仮名)の場合」
ポールは15歳のときに誘拐され、1年半のあいだ反政府軍の兵士となり、2004年に帰還しました。彼はラチョー地区で誘拐され、暴行を受けました。
「キャンプまでの道中で、反政府軍の兵士たちは政府軍の兵士2人を殺害し、さらに子どもの誘拐を続けて、最終的に8人の子どもを連行したんだ。そしてキャンプについた時に、反政府軍の兵士は抵抗した1人の子どもを殺し、『お前たちは兵士になりたいか?』と自分たちに聞いた。そして、1人1人、「兵士になる」と言うまで100回以上殴り続けた。その後は、兵士として戦えるようになるまで訓練させられた。また、政府軍の兵士だったかどうかという尋問が行われ、誘拐された人の中に政府軍の兵士がいるとわかるとその兵士は殺された。木の上で見張りをしているとき『逃げようとしている』と誤解され、何度も殴られ、2週間見張りをつけられたこともあるよ。その後、銃を与えられて、村人の殺害を強要されたんだ。」
帰還後、ポールは自分の両親がすでに亡くなっていることを知り、現在は、将来に不安を感じながら生活を送っています。
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「マーガレット(仮名)の場合」
マーガレットは15歳のときに誘拐され、反政府軍に7年間所属した後、22歳の時に帰還しました。子どもは以前には 2人いましたが、1人を亡くし、現在は1人(13歳)の子どもと4人の兄弟(18歳、16歳、14歳、12歳)と一緒に暮らしています。彼女の両親はともにすでに亡くなっています。彼女は誘拐された15歳のときに自分の父親と同じぐらいの兵士と強制結婚をさせられました。彼は24人もの妻を持っていました。背中を撃たれ、さらに帰還後、自分がHIV/AIDSウィルスに感染していることを知りました。また、元子ども兵であったことから、何度も地域住民から非難されたといいます。
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「その他の被害者の場合」
元子ども兵の声(Child Soldiers Global Report 2008より)
“ときどきジャングルで、反乱軍は僕たちをひどく殴るんだ。間違いをしてもしなくても関係ない。重い荷物を頭の上に乗せて長い距離を運ばされることもある。ほぼ毎日5時には寒い中集まらなきゃならないんだ。”
“レイプをされて苦しいです。体の中に傷を持ってるみたい。病気を持っているかもしれないと思うと怖いです。診断を受けたいけれど、私を助けてくれる人がいないのです。グルのレセプションセンターでテストを受けたけど、結果を教えてくれなかったの。お医者さんは、結果を知らないほうがいい、と言ったわ。”
(17歳、LRAに誘拐された女の子)
“他の子どもたちは僕にひどいことを言うんだ。ぼくが彼らと戦おうとすると、職員室へ走っていくの。先生は、もし僕の頭が誘拐されたことで混乱してるなら、ここに来て他の人の邪魔をするなって言うんだ。そして僕を殴った。僕は父さんと母さんと戻って、今は少し良くなったよ。”(14歳、LRAに誘拐された男の子)
元子ども兵が描いた絵