【カンボジア】情報とともに代替手段を伝えることの重要性 〜大きな変化をもたらすために〜
【アジアレポート/2019年8月_Topic02】
JICA草の根パートナー事業で実施中のバッタンバン州カムリエン郡の障害者世帯を対象とした生計向上支援で、2019年8月8日〜9日にグローバル経済のリスクとお金に関するワークショップを4回に分けて実施しました。
事業3年目の今年は、カウンターパートのバッタンバン州農林水産局から農業専門家のリィ・ヤン氏に農薬を通したグローバル経済のリスクとお金に関するワークショップを実施してもらいました。
これまでの事業の活動の中で対象となる地域では、換金作物であるキャッサバやトウモロコシの栽培をしてきた農民が多く、対象となる障害者世帯のほとんどが、農薬を使用していることがわかりました。
ただ、そのリスクを明確に認識している人たちが少なく、有機農法による家庭菜園や家畜の飼育にも換金作物で使う農薬の影響が少なからず出ていました。
ワークショップでは、農薬を散布した後にどういった症状を感じたことがあるのか、参加者に聞き、全身への影響も図で示していきました。
参加者のほとんどが頭痛や喉の痛みなど、何かしらの症状を感じていましたが、これまで農薬の影響だと関連付けて考えている人は少数でした。
農薬は効果がすぐに現れ、作物の収穫はうまくいくかもしれません。しかし、それによって体調を崩してしまい、治療費のお金がかかったり、土壌が農薬に汚染されてしまうリスクを考えると、長期的に見れば、経済的とはいえません。
では一体誰が一番、農薬で利益を得るのでしょうか?カンボジアの農薬は、隣国タイかカンボジアから入ってきたもので、グローバル経済の負の側面でもあります。利益を得ているのは農薬を製造する企業に他なりません。
ヤン氏は、市販の除虫剤の代わりに、カンボジアに生えている草木を使い簡単に”青虫の卵を産む蝶”を捕まえられる方法を紹介していました。青虫を殺すよりも、多くの卵を産む蝶を捕まえてしまう方が効率的で、簡単に青虫の被害を減らせるからです。
【農薬の代わりに散布した着色料の様子を確認するリィ・ヤン氏(左から二人目の赤いシャツの女性】
さらに農薬を散布する人たちへの影響を明確に分かってもらうために、実際に農薬を散布する機材を持ってきてもらい、ボランティアの受益者に白い紙で覆って、食品に使われている赤の着色料を農薬がわりに散布するデモンストレーションをしてもらいました。
実際に畑で散布するのと同じ作業を数分だけ実施してもらい、その着色料がどれだけ散布者に降りかかっているのか、参加者に見てもらいました。
頭から体全身にわずか数分で農薬が降りかかっているのが見て取れます。明確に目に見えたことで、参加者からも驚きの声が上がっていました。
熱帯性気候のカンボジアでは、炎天下のなか防護服やマスクをつけて作業をするのは非常に暑いため、若い人の中にはつけずに農薬を散布する人たちもいると参加者が話していました。
【農薬の安全な保管場所をグループごとに話し合った後、全体で発表する代表者】
このワークショップの関心は非常に高く、「実際に自分たちが使っている農薬がどれだけ危険で、リスクがあるものかを始めて知った」、「そこまで考えたことがなかった」、「自分たちの子どもたちや若い人たちにも教えたい」という感想が参加者から出ました。
情報を伝えた上であとは受益者に判断を任せるしかありませんが、今までこうした情報を知らなかった受益者が多かったことを考えると、ワークショップを実施する価値は、かなり大きいと思いました。
そして、同時に代替となる手段を伝えることで、一層の変化が見られると思いますが、今回は限られた時間しかなく、農薬の知識だけでも、まだまだ多くの情報があり、その代替となる手段も、また別の機会に時間を取って提供していきたいと思います。
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記事執筆/
アジア事業部
江角 泰