中国が武器貿易条約に加入した背景を分析【武器貿易条約(ATT)関連レポート_2020年7月_vol.2】
なぜ、中国はATTに加入したのか?中国ってATT反対派じゃなかったの?
まず、日本語・英語のメディアで盛んに指摘されている「背景」は、最近の米中関係です。アメリカのトランプ政権は、2019年4月にATT署名を撤回することを表明し 、同年8月にはロシアとのINF条約(中距離核戦力全廃条約)を離脱し、2020年5月にはオープンスカイズ条約(領空開放条約)からの離脱を表明しました。
中国の動向は、アメリカを軍備管理関連分野の多国間協調や国際規範を軽視する国として批判すると同時に、翻って中国は多国間協調や国際規範の形成・維持に貢献する「責任ある大国」なのだとアピールしようとする意図があるとの見方が広範に見られます。また、中国の行動のより広い背景として、近年の米中間の覇権争いないし「新冷戦」と呼ばれる状況を挙げることもできます。
①ATT形成を支持し、多国間協調や国際規範の形成・維持に貢献する「責任ある大国」であるのだとアピールしようとする意図
②条約上の規制を十分に弱いものにすることによって、中国が「国際規範に反して武器を輸出している」と批判される可能性を低減しようとする意図
③一部の国々が国家安全保障にかかわる分野の交渉を強引に推し進めようとすることを牽制しようとする意図
が表れていました。
例えば、この交渉会議の最終日午後に米露は条約案の採択に反対しましたが、中国はこれに同調しませんでした。むしろ、中国は、この会議を通じて作成された条約案を評価する旨や、引き続きATT締結に向けた交渉にコミットしていく旨を述べていました。
そして、そのような「譲歩」を行うと同時に、他の条項に関する自国の要求をATT草案に反映させようとしました。つまり、ATT交渉において、中国は国際人権法にまつわる輸出許可基準を駆け引きのためのカードに使ったのであり、最後まで反対してはいなかったのです。
この時に中国は棄権票を投じましたが、この理由は、条約草案に不満を持っていたからというよりも、国家安全保障にかかわる軍備管理・軍縮の分野においてコンセンサス採択に失敗した条約を国連総会での表決により多数決採択するという方法が、その後の同分野の交渉において新たな「前例」として定着することに対する反対姿勢を示した側面が強かったといえます。
①自国がATTの形成を支持する「責任ある大国」であることをアピールする意図
②条約上の規制を十分に弱いものにすることによって、中国が「国際規範に反して武器を輸出している」と批判される可能性を低減しようとする意図
③一部の国々が国家安全保障にかかわる分野の交渉を強引に推し進めようとすることを牽制しようとする意図
が表れていたといえるでしょう。
私自身、中国がこんなに早く加入するとは予想していませんでした。正直、もう少しくらいは時間がかかるのかなと思っていました。今後、考察を深めたく思っております。
(執筆:榎本珠良)