中国の武器貿易条約加入。今後の中国からの武器移転に対する影響は?【武器貿易条約(ATT)関連レポート_2020年7月_vol.3】
政策アドバイザーの榎本珠良です。中国が武器貿易条約(ATT)に加入したことを受け、以下の記事で情報や分析を示しました。では、中国がATTに加入したことで、同国からの通常兵器移転になにか影響があるのでしょうか?
まず、端的に申しますと、中国のATT加入は、少なくとも短期的には、中国の通常兵器移転に対して追加的な大きな制約を課すものにはならないことが予想されます。
なぜなら、ATTは、米中露を含む様々な国との妥協を経て採択された結果として、曖昧な文言を数多く含み、締約国からの通常兵器移転に強い規制を課す内容とは言いがたくなっているためです。
なぜなら、ATTは、米中露を含む様々な国との妥協を経て採択された結果として、曖昧な文言を数多く含み、締約国からの通常兵器移転に強い規制を課す内容とは言いがたくなっているためです。
例えば、ATTは、具体的な事例レベルでどの通常兵器移転がATT違反といえるのかについて、絶対的な評価を下すことが極めて困難な文言になっています。
実際、ATT発効後に、ATT締約国のなかには、例えば2015年3月からイエメンで空爆等を行っているサウジアラビアへの武器移転について、ATT の移転許可基準に照らし合わせて移転を控える判断をした締約国もあれば、ATT違反にあたらないと判断した締約国もあります。
実際、ATT発効後に、ATT締約国のなかには、例えば2015年3月からイエメンで空爆等を行っているサウジアラビアへの武器移転について、ATT の移転許可基準に照らし合わせて移転を控える判断をした締約国もあれば、ATT違反にあたらないと判断した締約国もあります。
さらに、ATT は、移転、輸出、輸入といった基本的な用語も定義しておらず、各国の武器輸出入等の報告書を公開するか否かも、また、どのような種類の情報を報告書に記載するのかも明瞭に記していません。
2015年以降の締約国会議プロセスを通じて年次輸出入報告書の様式が作成され、多くの締約国はこの様式を使用して自国の通常兵器輸出入について事務局に報告書を提出していますが、この様式は大雑把なものでしかなく、一部ないし全部の情報を記載しないことも可能になっています。
2015年以降の締約国会議プロセスを通じて年次輸出入報告書の様式が作成され、多くの締約国はこの様式を使用して自国の通常兵器輸出入について事務局に報告書を提出していますが、この様式は大雑把なものでしかなく、一部ないし全部の情報を記載しないことも可能になっています。
というわけで、中国がATTに加入したからといって、この国からの武器移転が大きく制約されるとは言いがたいかなと思います。逆に考えれば、加入しても自国からの武器移転に大きな影響がないであろうことも、中国によるATT加入を促したといえるかもしれません。
なお、ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の研究によれば、2017年に中国はアメリカに次いで世界第二位の武器生産国であり、2015-2019年に中国は世界第五位の武器輸出国です。詳しくは、SIPRIの報告書をご覧ください。以下URLにてご覧いただけます。
※こうしたデータで取り扱われている兵器は、ATTで規制される兵器の範囲と必ずしも完全に一致しているわけではないことに注意。