【ウガンダ】「轍(わだち)」vol.4〜ウガンダ事業の成長〜
今年で創設から20年を迎えるテラ・ルネッサンス。20周年特別企画として、これまで海外事業・海外駐在員が歩んできた道のりをそれぞれの活動国ごとにお伝えしていきます。
今回は2016年よりウガンダに駐在し、2018年より南スーダン難民への自立支援のプロジェクトマネージャーを務める鈴鹿達二郎さんにアジュマニ県での事業の成長を伺いました。
アジュマニ事業の始まり
ー2017年、鈴鹿さんが緊急支援に入った当時の難民居住区の状況はどのようなものでしたか?
アジュマニ事業では、現在行っている自立支援の前に、緊急支援を行っていました。2016年にパギリニア難民居住区は立ち上がったのですが、2017年のはじめにパギリニアに入り、その後半年ほどニーズ調査やウガンダ政府とMOU(Memorandom of Understanding 覚書)を結ぶために首都のカンパラに行って手続きのやりとりをしていました。
パギリニア難民居住区に入った当時の状況としては、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)のマットやシートを使って、仮設住宅を建設していた人が多く、他の場所とは違った印象を受けました。UNHCRの他にも様々なNGOも入ってはいたのですが、緊急の支援がまずは必要で、テラ・ルネッサンス はPSN(Persons with Special Needs)と呼ばれる特別な支援を必要とする人たちへの緊急支援から始めました。
ー人々の様子はどうでしたか?
居住区の中では、女性たちも自分で家を建てていたりしていたんです。これが日本人なら、居住区に避難しても自分で家を建てるなんてできないと思うけれど、自分自身で家を立てる彼らをみて、とても驚きました。雨季になると家庭菜園によって栄養のバランスを取ろうとする人たちもいて、自分たちでこの状況をなんとかしようとする人たちのライフスキルと言うか、「生きようとする力」を強く感じました。
ー事業を始めた当初の心境はどうでしたか?
一番初めに居住区に入った時、孤児の子たちが集められているセンターに訪問したのですが、その子供たちは紛争の背景も知らないまま、ウガンダに逃れてきた子たちでした。南スーダンでは、独立前のスーダンであった時から長期にわたり石油資源を巡って紛争が起こっており、日本もそれを輸入をしていました。その状況を何も知らない子供たちをみて、ごめんなさい、と言うか、ものすごく申し訳ないという気持ちになりました。
ーなるほど、難民の方々の「生きる力」を強く感じる一方で、無垢な子供たちをみて申し訳ない気持ちも感じていたのですね。
難民の人々の持つ困難、地道な歩み寄り
ー難民の方々特有の持っている課題やホストコミュニティの課題など、様々な障壁があったかと思いますが、事業を進める中で大変だったことは何ですか?
南スーダン難民の状況であると、食料援助に長らく依存してきています。居住区ができてから、食料援助が入って毎月一定量の食料が手に入るようになり、それを2,3年続けてくると、難民の人々の自立のマインドはかなり低くなってきてしまうんです。南スーダン難民だから、というわけではなく、これは人間なら誰でもそういう傾向があるのではないかと思います。
ー自立へのモチベーションが欠落していくというのは内面的な問題だからこそ難しい問題だと思いますが、どのように働きかけてきたのですか?
これは今も続けていることですが、とにかく「自立の重要性」というのを何度も伝え続けています。特に、最近のコロナの影響などで需要が落ち込み、仕事が減った受益者もいますが、「もう一度ビジネスをがんばってみよう」と思えるように投げかけをしていきたいと思います。
ーなるほど。このコロナ禍では、なおさら自立の重要性を痛感する場面が多かったようですね。
【コロナ禍でも、職業訓練を再開できた生徒たち】
ー鈴鹿さんはこれまで、受益者の人たちとの関係性を、どのように構築してきましたか?
僕は生徒が何か作ったら、「いいね!」と常に言うようにしていいます。訓練の中で生徒たち一人一人と話せる時間は少ないので、すぐにわかるリアクションであればいいなと思って。作品を褒められるとやはり彼らも喜んでくれて、それが自尊心に繋がっているように思います。
ウガンダは、格差があり一概には言えませんが、貧困にある人たちは、雇用や教育の機会を十分に受けてくることができませんでした。そのような状況下で、自分たちが「できる」と実感する機会が少ないのではないか、と感じています。エネルギーがある人たちに良い方向にエネルギーを向けてもらえるように、そして自分に対する自尊心を持ちながら、自分が自分で人生を変えていくことができるということを実感してもらうに、働きかけていくことが大事だと感じています。
ー素敵です。信頼というものが根底にあるような気がしました。
実際、職業訓練を経て、一人一人が個人事業主になる、つまり責任をおいながらビジネスをやるということは本当に凄いことです。元子ども兵や難民の人たちが開業してビジネスというのは、日本で例えると一般の人が会社を起こすようなことで、本当に大きいことですし、自分の技術と知識で、自分と家族を養っていくということ自体が大きな「覚悟」が必要になってくるので、それはものすごく尊敬しているところです。
ー受益者の方々の責任感や覚悟というのは、どのようにして養われていくのでしょうか?
難民の全体的な傾向としては、援助に依存してしまうため、自立のマインドが阻害されてしまうような構造が出来上がっていると感じます。なかなか自立しようと思っていても、自分に資本や技術がないと、諦めてしまう人も多いです。テラルネでは、「食料援助に依存するのはいつか終わりがくる。だから、自立が大事」と伝え続けていますね。
現地スタッフという存在
ー鈴鹿さんがアジュマニ事業を進めていく中で、現地のスタッフの方の協力もあると思いますが、鈴鹿さんにとって現地スタッフはどういう存在ですか?
僕がリーダーではありますが、これまでの3年間は現地スタッフなしには成り立たなかったと思います。訓練講師や警備の人たちまで、それぞれのスタッフが力を合わせていくれているところで、いろんな課題はありましたが、それぞれの受益者とも向き合いながら取り組んでくれるスタッフの皆がいてくれて本当によかったです。
ー現地スタッフとの関係性を気づくのは大変でしたか?
そうですね、彼らの価値観はやはり日本とは違うものがありますから、簡単なものではありませんでした。仕事に無断でこなくなるとかもあり(笑)ただ、彼らは、家族や親戚との結びつきも強く、その責任も負っています。基本的にはそちらが優先なんです。
日本であれば、家族や親戚との繋がりがだんだん薄くなっていますが、ウガンダや南スーダンでは結びつきがとても強いです。その点では日本的な価値観を当てはめるのでは通用せず、生活の一部に仕事があるという価値観を理解しながら、進めていくのが大事だと感じていますね。
ー実際、何年くらいで価値観の差に慣れてきましたか(笑)
今でウガンダ5年目ですが、だんだん慣れていくという感じで、事業の規模も大きくなってきてるので、日々チャレンジだと思います(笑)
事業を進める過程の中で、気づくことも本当に多く、業務のマネジメント自体も僕にとっても毎年気づくことがあります。
ー事業が拡大していくと、現地スタッフの人たちの責任感も大きくなっていくかと思いますが、彼らの存在感に変化はありましたか?
訓練講師に関しては、「技術を糧に生きていく」という意志を持っている人たちなので、自立への想いが強く、生徒に対して積極的に指摘したりしてくれます。訓練講師も受益者も民族的に同じではあるけれど、もちろん個人の価値観の違いなどもあり、やはり簡単にいかない部分はあります。訓練講師自身も、受益者と向き合うことを通じて、専門技術など強みを生かして、また自分の弱みにも向き合いながら、よりチャレンジングなことをしてくれているように感じます。
アジュマニ事業の歩みと展望
ーアジュマニ事業は開始から3年をむかえましたが、受益者以外に、事業が地域に間接的に与えてきた影響などはありますか?
そうですね、例えばで言うと、ウガンダは基本的に男性の方が稼ぎ、男性優位な社会なのですが、洋裁の技術を身に付けた女性が旦那さんに教えて一緒に店を手伝ってもらっていたり、近隣住民の人たちが洋裁の技術を習いにくることもありますね。
ー波及していっているのですね。これまでの歩みを振り返ってみると、アジュマニ事業の歩みはどのようなものでしたか?
「気がつけばここにいる」という感覚ですね。パギリニア難民居住区の中では、一つの主要なNGOとして認知されるようになってきましたし、それは3年間なんとか地道に進めてきた結果なのかなと思います。
ー今後、アジュマニ事業をどのように発展させていきたいですか?
今後アジュマニ事業は、フォローアップや新規事業などに着手しながら進展していきます。テラルネは自立支援を主としていて、さらに必要としている人たちも多いので「一つのところに長く支援を届けていく」という特徴があります。僕たちは緊急支援ではなく、自立支援によって中長期的に良い影響を与えられるよう、地域の発展や開発をサポートして行けたらいいかなと思います。
ー編集後記(インタビュー・執筆担当:今津)ー
皆様、最後まで読んでいただきありがとうございます。
今回の鈴鹿さんへのインタビューは、アジュマニ事業の歩みに触れながら、私自身、国際協力のあるべき形について様々に考えを巡らせることのできた時間でした。
どんな時も、平和を築く試みはとても地道なものなのかもしれません。
数年にわたり現地での活動に取り組む鈴鹿さんが、今もなお、絶えず自立の必要性を伝え、目の前の人の自尊心を守り続けている。その姿勢あってこその、アジュマニ事業の歩みだったのではないかと感じます。
これからもテラ・ルネッサンス の一大事業として発展を続けるウガンダ・アジュマニ事業。今後の進展にぜひ、ご注目ください!
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インタビュー・記事執筆
啓発事業部インターン/ 今津 千尋
執筆協力
アフリカ事業マネジャー/ 鈴鹿 達二郎
啓発事業部インターン/ 田畑 勇樹