『私の一歩。』02.大槌事務所 黒澤かおり、佐々木加奈子
『私の一歩。』は、【夏季募金キャンペーン2021 『それでも、一歩を。』】の期間中に、お送りする特別連載ブログです。本シリーズでは、テラ・ルネッサンスに関わる人々(スタッフ、支援対象者の方々、支援者の方々)の「一歩」をお伝えいたします。
第2回の『私の一歩。』は、テラ・ルネッサンス 大槌事務所スタッフ 黒澤かおり、佐々木加奈子です。
「大槌復興刺し子プロジェクト」は、東日本大震災からの復興への「一歩」を踏み出すために立ち上げられました。そして、10周年を迎えた今年、「復興」の文字を取り、「大槌刺し子」として新たな「一歩」を踏み出しています。
※大槌復興刺し子プロジェクトは、東日本大震災により、町や大切な人、家、仕事を奪われ、綻んでしまった大槌という町を、伝統文化である「刺し子」を通して、もう一度みんなが誇れる、美しくたくましい町にしていきたいという想いから2011年6月に始まった、女性たちによるプロジェクトです。
プロジェクト発足当初から携わってきた黒澤と佐々木が大切にしている「想い」や「一歩を踏み出す決断」についてお伝えします。
本シリーズを通して、みなさまそれぞれの『私の一歩。』に思いを寄せる時間になれましたら、そして、「今を生きる」一助になれましたら、幸いです。
ぜひ、ご一読ください。
「どうしよう」からの歩み
【左:佐々木 右:黒澤】
ーまず初めに、大槌復興刺し子プロジェクト発足当初のお話を聞かせてください。ブログなどでも書かれていましたが、震災直後はどういう状態でしたか。皆さんで集まって刺し子をやり始めて、心理的な変化などありましたか。
(黒澤)震災後は、大槌では家が流されたり、家族が亡くなった方が多かったけれど、私と加奈子さんは、そういうことはなかったんです。お仕事はなくなったんですけど。
(佐々木)だから、避難所に避難していた人と私たちは、心理的には全然違う部分があります。
私たちについて言えば、お仕事がなくなってしまったことが大きかったです。
ずっと家にいる中で、「何かしていないと」という焦りと、「どうしたらいいんだろう」という不安がありました。
(黒澤)収入もなくなって、子どもたちも育てなきゃいけない。まずどうやって生活していけばいいのかわからず、しんどかったですね。
(佐々木)黙って家にいるわけにもいかないけれど、仕事も見つからない。
だったら、少しでもやることがあって、その時間だけでも集中できたらいいな。という気持ちから、刺し子の声をかけてもらった時に、「じゃあ、やってみよう!」と始めました。あとは、お金を得ることで、「あら、1枚やればいくら報酬が出るんだ!」という、喜びもありましたね。
(黒澤)そうだったね。「どうしよう。」という不安から、少しでも収入がもらえる喜び。
(佐々木)当時は、100円でも、200円でも、とても大きかったです。
「じゃあ、次は何枚がんばってみようかな!」という気持ちで、続けてきました。
(黒澤)最初の半年くらいの「これからどうしたらいいか。」という不安がありました。しかし、刺し子が始まってからは、「もうやるしかないよね!」「目の前のことに、くよくよしていても仕方ないよね!」という前向きな気持ちに変わりました。
パソコン作業など、やったことのないことをやらなきゃいけないのは大変でしたが、楽しいことの方が多かったですね。
(佐々木)たしかに。私もここにきてパソコンを覚えました。でも、それも楽しみながらできました。
ーありがとうございます。大変な状況の中、「どうしよう。」から「やるしかない!」へと気持ちも変化し、刺し子の皆さんで喜びや楽しさを積み重ねてきたんですね。
こっからの10年も行くんだべ!
ー今年10周年を迎え、ロゴを変えたり、「大槌復興刺し子プロジェクト」から復興の文字が取れて「大槌刺し子」になったりと、新しい体制になりました。新たな「一歩」を踏み出した今、お二人はどんなお気持ちですか。
(黒澤)不安半分、楽しみ半分ですね。
「『復興』の文字が取れればいいね」ということは、ずっと話してきたことですが、もちろん、不安もあります。今までは「復興」がついていて、復興支援という目線で買ってくれるお客さまが多かった。
けれど、これからはそうはいきません。大槌刺し子は今年からOEMに注力することになりました。OEMとは、他社ブランドさんの製品を製作するというものです。
7月には、ベビー・子ども関連ブランドのファミリアさんとコラボした商品が発売されました。ファミリアさんの洋服に付く刺し子が、ファミリアさんにとってどのような価値になるかを考えながら、また違った目線で製作する必要があります。
それを考えると、「うまくやっていけるだろうか」「お客さまにうまく伝えられるだろうか」と不安になります。
(佐々木)加えて、その意識を刺し子さんにも伝えて、皆が同じ気持ちでその商品に向かうことができるようにするにはどうしたらいいかも考えなきゃいけない。それが大変ですね。ただ縫ってください、この部分にこれを刺してください、だけではだめですから。
(黒澤)しかし、Facebookに投稿する用に撮影した「大槌刺し子復興プロジェクト10周年」の動画で、刺し子さんから「次の10年も頑張りたい」という言葉が出てきました。それには感動しました。そして、私たちも「やばい、やんなきゃいけない」という気持ちになりました。
(佐々木)うんうん。「こっからの10年も行くんだべ!」っていうコメントが出るとは思いませんでした。先の10年も続けたい気持ちがあるんだな、と感じました。刺し子さんたちは、本当に頼りになる存在です。
価値を伝える職人として
―今年を契機にさらにステップアップすると思いますが、黒澤さん、佐々木さんの今後の刺し子事業への意気込みを聞かせてください。
(佐々木)まずは、刺し子に触れた人たちに、商品を通して、刺し子のいい部分が伝わったら嬉しいです。刺し子は、昔からの生活にあったものが、現代に伝わってきたものです。その良さを今まで以上に表現できるように、考えていく必要があります。
(黒澤)刺し子は伝統工芸ではありながら、ちくちくと波縫いするのは昔から生活の中にあった、手仕事でもあります。「その価値を現代にどうやって表現するか」これは、けっこう難しいんですよね。
事業が始まった当初は、私たちも含めて刺し子さんは、趣味として時間がある時にやって、「お金もらえるんだったらいいよね。」という感覚でした。でも今は「職人としてやる。」という意識の発展が大事になってきています。
「復興」の文字を取って、ロゴも変わり、新しくOEMにも力を入れるので、刺し子さんたちにもこれからは「岩手県大槌町の職人」という意識を持ってもらいたいですね。
ー「職人」、かっこいいです!今がすごく大切な時期なんですね。刺し子さんたちの意識や取り組み方は、この10年で変わりましたか。
(佐々木)変わってきてますね。だいぶ違うと思います。
(黒澤)例えば、新しく作る商品の説明をすると、「これはどういう人が買うんだろう」と刺し子さんたちも考えるようになってきています。「こういう人たちだったら、こうやって縫った方がいいよね」など、今まであまり気にしていなかった細かい部分にも気がつくようになりました。
あとは、大槌刺し子の商品じゃなくても、自主的に自分の持ち物に刺すこともあって、自分たちで技術の腕を上げようとしています。
刺し子さんは60~70代の方が多いのですが、すごく元気です。自分が思ったこと、やってみたいことになんでも挑戦します。
(佐々木)様々な事に挑戦しているので、私たちも見習わなきゃいけない点は、たくさんあります。
ーありがとうございます。お二人のパワフルさも、負けてませんよ。
とにかく一針、刺してみる
終始楽しいインタビューでした!(左上、右上、下写真左、右の順にインターン田代、今津、黒澤、佐々木)
〜夏季募金キャンペーン実施中〜
東日本大震災によって深く傷つき、「これからどうしたらいいのか」という大きな不安を抱えていた大槌の女性たち。彼女たちに「大丈夫。一緒に生きてみよう。」とまず寄り添い、支援を先導したのは、ウガンダの紛争被害者の方々でした。
困難に直面してきた彼女ら・彼らは、時に不安を抱えつつも、自立への希望を持ち続けています。そして、寄り添いの輪を広げてくれています。それが、私たちが20年で積み上げてきた希望です。
私たちはこれからも、そんな彼女ら・彼らひとり一人に寄り添いながら、活動を続けてまいります。
テラ・ルネッサンスでは、7月15日から8月31日まで、夏季募金キャンペーンを実施しています。
大槌を含むアジア・アフリカで自立に向けて歩む人々と共に、テラ・ルネッサンスが活動を継続していくために、この期間に【1,200万円】のご寄付を必要としています。
ぜひ、その自立の「一歩」に寄り添う支援に、寄付という形で、皆さまにご協力いただけますと幸いです。
ーーーーー
執筆担当/
啓発事業部 インターン
田代 啓
執筆サポート/
大槌事務所 黒澤 かおり、佐々木 加奈子
啓発事業部 インターン 今津 千尋