【カンボジア】土地の自然を活かした問題解決へ
【アジアレポート/2021年7月_Topic01】
カンボジアでは、新型コロナウイルスの感染拡大がなかなか収まらず、最近はデルタ株による感染も広がりを見せてきています。最近は人間だけではなく、牛たちの間でも新しい感染症が流行り始めています。
7月に入り、「牛が病気になってしまったようなので様子を見てほしい。」という連絡が、対象世帯からテラ・ルネッサンスに入るようになりました。現地NGO・CRDNASEの農業専門家サリー氏によると、その新しい感染症は、タイで先に広がり、カンボジアに入ってきて流行り始めた、ランピー・スキン病(クメール語で「ドムポッス・スバエク」)と呼ばれるもののようです。
↑感染症によって体に斑点のようなものができてしまっている小牛
生き物の間で起こる感染症の流行は、完全に防ぐことは難しく、ある種仕方のないことではあります。しかし、この新しい感染症の厄介な問題の一つは、治療のために注射を打っても、なかなかその効果が出ないということです。
また、注射を打つには当然お金がかかってしまいます。毎日打たないといけない注射は一週間ほどで75米ドルほどかかるそうです。農業を生業としており、毎月まとまった収入が入ってくるわけではない農村の世帯にとっては、大きな家計の負担になります。
そこで、テラ・ルネッサンスでは、注射の代わりに薬草を使って治療を試みることになりました。薬草はカンボジアで伝統的に用いられてきたもので、特別に購入したりする必要はなく、生えている場所さえ知っていれば誰でも簡単に取ってこれるもので、お金もかかりません。
↑草むらの中で探し求めていた薬草を収集したサリー氏
今回は、薬草を使った薬作りの方法を覚えてもらうために、牛の調子がよくないという連絡をもらった世帯の家で、薬作りを実践してみることになりました。電話でやり方を伝えることも可能ですが、やはり一度一緒にやってみた方が、村の人にも理解してもらいやすいです。
↑薬草をすり鉢の中で叩いているところ
薬草を用いた薬作りは、すり鉢に取ってきた薬草を入れ、叩いて緑色のエキスを出していくところから始まります。そのエキスを、市販の抗生物質の錠剤(子牛の治療には1錠のみ使用、成牛は3錠使用)を溶かした水と混ぜて完成です。
↑叩いて潰した薬草を絞って、エキスを集めている様子
このようにどこにでも生えている薬草を用いて問題を解決するというのは、一見地味ですが、とても重要なことといえます。テラ・ルネッサンスがカンボジア事業で目指していることの一つ、「対象世帯の生計を向上させる」という目標に到達するには、大きく分けて「収入を増やす」と「支出を減らす」という二つのアプローチがあります。
生計を向上させようと思うと、収入を向上させることに目を向けがちですが、収入が増大したとしても、支出が同じ割合で増えてしまっては、手元に残るお金の額は変わりません。支出の削減は、収入の向上と同じくらい大切です。つまり、「注射を打つ」ことの代わりに、「薬草で薬を作り、治療する」ことは、この支出の削減に貢献する意義深い活動ということになります。
今回の薬草のように、カンボジアの土地に昔からあるもので、使い方によってはとても有益なものがたくさんあります。しかし、「お金にならない」「役に立たない」と人々から注目されず、その価値を見出されていないものを、現在の科学と現地の伝統知を融合させて、活用したいとテラ・ルネッサンスは考えています。
それらをうまく活用して、収入を向上したり、支出を削減したりできるよう、これからもカンボジアの人々とともに活動を続けていきます。
元浦 菜摘