『私の一歩。』05.ラオス 不発弾回避教育事業
シリーズ『私の一歩。』は、夏季募金キャンペーン2021 『それでも、一歩を。』の期間中にお送りする特別連載ブログです。本シリーズでは、テラ・ルネッサンスに関わる人々(スタッフ、支援対象者の方々、支援者の方々)の「一歩」をお伝えいたします。
今回インタビューしたのは、ラオス事業マネージャーの飯村浩(いいむらひろし)。ラオスの活動地であるシエンクアン県において、不発弾事故回避教育事業を含めた事業を統括しています。自然が豊かで、食べ物もおいしく、「東南アジアの桃源郷」ともよばれるほどの魅力をもつラオス。今回は、まだあまり多くの人に知られていないラオスの魅力と不発弾の問題、回避教育事業に焦点をあて、話を聞きました。
不発弾とラオス
— はじめに、「不発弾回避教育」とはなんですか?ラオスに不発弾回避教育が必要な背景を教えてください。
まず知っていただきたいのが、「ラオスには不発弾が多い」ということです。
ベトナム戦争中の1964年から1973年、ベトナムの隣国であるラオスとカンボジアも戦場となりました。米軍は、この9年間で200万トン以上の爆弾を落としました。この数は、ラオスの当時の人口と照らし合わせると1人あたり1トンの爆弾が落とされた計算になります。ラオスは、世界一爆撃を受けた国でもあるのです。
特に多く使用された爆弾が、クラスター爆弾とよばれるテニスボールくらいの大きさの爆弾で、親爆弾に、多数の子爆弾が入っています。これが空中で開くことで、子爆弾がばら撒かれる仕組みです。
当時、2億7000万個〜8000万個のクラスター爆弾が落とされたと言われていますが、その不発率(爆発しないで残る確率)が30%あります。したがって、現在でも多くのクラスター爆弾が、不発弾として人々の生活エリアにも残っているのです。
あらゆるリスクを鑑みた回避教育
次に「回避教育とはなにか」ですね。不発弾回避教育は、事故に遭わないようにするための教育です。不発弾があまりにも生活の身近にあるから、大人も子どもも、事故に遭って亡くなったり、怪我をしたり、手足を失ったりすることが今でも多いんです。そういう事故を防ぐための教育です。
不発弾は、投下時の高度が低いとか、地面が柔らかいとか、爆弾のクオリティが悪いとか、そういうことが原因で爆発せずに残っています。ただ、一見してどんな状態なのかは、全くわかりません。だから、いろんな可能性を含めながらの回避教育が必要です。
子どもたち向けには、不発弾の危険性や見つけた時の対処法をポスターや紙芝居、ジグゾーパズル、不発弾回避ソングなどわかりやすい方法で伝えています。
大人向けには、鍬よりも衝撃を与えにくいシャベルで農作業をしてくださいとか、加熱で爆発することがあるので焚き火をするときは盛り土をしてくださいとか、そういったことを伝えます。ただし、大人のする農作業には、結局小さな子どももついてくるので、結局、大人向けの情報も、子どもたちに伝える必要がありますね。
ーありがとうございます。生活に危険が入りこんでいるからこそ、大人向けにも子ども向けにも回避教育が必要なんですね。村で授業をやってみて、実際の反応はどうですか?
想像以上に、みなさんが協力的です。実は、「村の人は来ないかも。」と思っていたのですが、村のお父さんやお母さん、村長さんも積極的に参加してくれました。
今回の不発弾回避教育事業は、主に3~7歳の幼稚園および小学校低学年の年齢の子どもたち向けに実施したのですが、お父さんお母さんが参加してくれたおかげで、小学校中高学年の年齢のお兄ちゃんお姉ちゃんも、連れられて来てくれました。
紙芝居を使った不発弾回避教育の様子。
ー好評なんですね!ちなみに、教材はどのようにして作っているのですか?
スタッフで、試行錯誤しながら作っています。例えば、紙芝居の原案は、すべて不発弾回避教育を担当しているスタッフが作りました。最初は、子ども向けなのに紙芝居の顔が怖くて、その顔を可愛くするのが大変だったりしましたが、いいものができました。
不発弾との「共存」と、大人たちの未来への想い
— ラオスの不発弾回避教育事業に特徴的なことが、村の大人たちも一緒に事業に取り組んでいることだと思うんです。スタッフだけじゃなくて、村の大人たちも、子どもの未来のために事故を防ごうと協力している。そういった大人の方々の想いを教えてください。
私は、活動の中で不発弾の被害者と会ってきましたが、彼ら・彼女らは、事故を「ひとつの悲しい事件」という捉え方をしていない印象があります。もっと受け入れている感じがする。難しいけれど、「不発弾があるという状況と共存している」感じがするんです。
それは、あまりにも不発弾の脅威が近すぎるからだと思います。ある意味(不発弾を)特別視していない。普通、そんな危険なものが生活の中にあったら、完全に除去するまで生活したくないと思いますよね。でも、ラオスではそれは無理。だから、リスクを受け入れて生活しています。
それでも心の底では、子どもをなくして哀しみを持っている人もいるし、知り合いや自分自身がケガした人、自身が手足を失った人もいます。だからこそ、テラルネが小さいこどもにフォーカスして事業をすると、子どもたちの未来を想って応援してくれる村人が多いんだと思います。
子どもたちに向けた回避教育の様子
例えば、事業を実施する村には、村の人が持ち回りで担当するボランティアがいます。ひとつの村のボランティアが、すごく熱心に不発弾教育の準備、実施に参加してくれていたんです。そこで話を聞いてみたら、その方は子どもを不発弾事故でなくしていました。そういった方は、ことさらに強い意識を持って、活動を重要視してくれています。
— 不発弾の危険が、ここまでも生活に取り込まれている中で、悲しみを抱えている人もいるけれど、できることをしている方々が本当にすごいと思います。
そう、その感覚。たくましいですよね。悲しいとかいう気持ちはあるけど、活かして行かないと生活していけないです。
減らすんじゃなくて、ゼロにしないといけない。
— 不発弾撤去には長い時間がかかりますが、リスクを減らすことも同じく長い時間がかかると思います。その長い道のりの中で、一番難しいことはなんでしょうか?
そうですね。あえてひとつ言えば、ゴールが見えないことです。
不発弾回避教育って、ほぼ永久的に続けなければならないんです。まず、不発弾の数が圧倒的です。不発弾除去のプロが、コツコツと撤去をしても、残っている数と除去のスピードが全然合わない。除去するのに、まず数百年はかかると言われています。
さらに、不発弾の数って、データはたくさんありますが、実は、正直ほんとうの数ははっきりしていないんです。だから、数百年かけて除去したとして、完全になくなったという保証ができない。
だから、回避教育はゴールがありません。永遠にやっていくしかない。ある世代の子どもが、不発弾回避教育で、100%内容を理解しても、世代がどんどん変わっていけば、新しい世代にも回避教育をする必要があります。
— ゴールが見えない中でも、撤去活動と回避教育を、一歩一歩進めていかないといけないのですね。解決のための長い道のりで、テラルネの回避教育の役割は何だと考えていますか?
テラルネの役割は、テラルネが居なくても、回避教育が続けられる環境をつくることだと考えています。
事故って減らすんじゃだめだと思うんです。ゼロにしないといけない。ラオスの人に非があるわけではないし、事故に遭う人が悪いことをしたわけではないですから。被害者はゼロじゃないとダメなはずです。
では、ゼロにするにはなにをしたらいいか。回避教育は有効な手段の一つだと考えています。
繰り返しますが、回避教育は未来永劫続けないといけません。でも、テラ・ルネッサンスがこの先ずっとラオスで事業を続けるのは無理ですよね。そもそもNGOのゴールは、そこからNGOが必要とされなくなることですから。
限られた時間でテラルネがするべきことは、いろんな関係者、例えば村の人たち、学校の先生たち、村のボランティア、お母さんお父さん、役所の人、みんなに理解してもらうこと。そして、ラオスの人たちだけで回避教育を続けてもらえる環境をつくることです。
日本には、避難訓練があります。それは日本に災害が多いからで、他の災害が少ない国には必ずしもあるわけではありません。ラオスにおける不発弾回避教育も、そんな立ち位置にしていく必要があると思っています。
具体的には、不発弾回避教育の指導者を育成したり、教育システムに回避教育を組み込んだり。本当は、不発弾の話じゃなくて、体育とか音楽、美術とかをもっともっと習って欲しいんですけどね…。
— ラオスで回避教育が定着するための土台となる一歩を、ラオスの人たちと一緒に積み重ねているんですね。
ラオスはいい国です。不発弾で可哀想だとかは、そのあと。
— ありがとうございました。最後に、ここまで読んでくれた読者のみなさんに、伝えたいことはありますか?
ラオスは、いい国です。ラオスの人もすごくいい人たちです。なので、まずはぜひラオスを知って欲しい。本当は来て欲しいです。ラオスを知ったら、必ず好きになります(笑)。
不発弾でかわいそうだとか大変だとか言うのはそのあとです。私もラオスの素敵なところを発信していきます。この記事を読んでくださったみなさんも、ラオスの話を知って、感じたことをいろんな人に伝えてほしいと思っています。
— ありがとうございました。私も、最初から不発弾という課題ありきでラオスについて考えてしまっていたことに気が付きました。課題だけではなく、活動地の魅力も伝えていけるような発信を、テラルネとしてもしていきたいですね。
(以上がインタビュー)
・・・
不発弾の問題に、なかなか終わりは見えません。しかし、インタビュー中、飯村は私たちに問いかけました。
「完全に無くすことは無理です。でも、諦めますか?」
そんなわけにはいかない。これは、私たちだけではなく、何よりも、危険と隣り合わせで暮らすラオスの人たちの想いです。
ゴールが見えなくても、前を向いて一歩一歩進む人々。道のりが長くても、回避教育事業は、私たちは、そんな方々の歩みに、皆さんと一緒に寄り添いたいと考えています。
そんな想いを込めて、『それでも、一歩を。』というキャッチコピーを付けました。
夏季募金キャンペーン2021、実施中!
テラ・ルネッサンスでは、7月15日から8月31日まで、夏季募金キャンペーンを実施しています。アジア・アフリカで自立に向けて歩む人々と共に、テラ・ルネッサンスが活動を継続していくために、この期間に【1,200万円】の資金を必要としています。
ぜひ、その自立の「一歩」に寄り添う支援に、寄付という形で、皆さまにご協力いただけますと幸いです。
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インタビュー協力:
ラオス事業プロジェクトマネージャー
飯村浩
インタビュー/記事執筆:
啓発事業部 寄付・法人連携担当
津田理沙
執筆協力:
啓発事業部 寄付・法人連携担当
福井妙恵