『景色はつながる』06.ラオス
『景色はつながる』は、冬季募金キャンペーン2021『この景色の先に。』期間中に配信する特別連載ブログです。本シリーズでは、様々なことを乗り越え一歩ずつ進んできたからこそ見えるものを「景色」とし、テラ・ルネッサンスが支援する方々が「これまで見てきた景色」、そして「今見えている景色」をお伝えします。
危ない、危ない、危ない。爆弾はたくさん種類があって、どこにあるか分からないんだ。見つけたら遠くに逃げろ。見つけたら遠くに逃げろ。近づいたら危ないよ。
これは、WORLD EDUCATIONという団体の回避教育の歌の歌詞を日本語に訳したものです。回避教育とは、子どもたちが不発弾の爆発に巻き込まれるのを防ぐために行う教育のこと。不発弾が多く残存する地域で、1人でも多くの命を救うために、必要不可欠な支援です。
不発弾に汚染されたラオス、被害を受けやすい子どもたち
テラ・ルネッサンスの事業地であるラオスのシエンクアン県も、そうした地域の1つ。現地には、ベトナム戦争時に落とされた大量の爆弾が、不発弾として至る所に残っています。ラオスは、世界一爆撃を受けた国だと言われているのです。
1つの親爆弾の中から、大量の子爆弾がばらまかれる方式の爆弾。当時2億7000万個〜8000万個のクラスター爆弾が落とされたと言われ、そのうちの約30%が不発弾として今も残存している。
不発弾は、衝撃を加えたり、加熱したりといった、日常の中でその存在に気付かないままに与えうるような刺激で爆発するため、毎年多くの死傷者を出しています。
そして、そんな危険な武器が、作物を育てる畑や、子どもたちの通学路など、皆が毎日当たり前に過ごす場所に、当たり前かのように転がっています。
不発弾のことを知らない子どもたちには、小さくて丸い鉄のかたまりは時におもちゃやボールに見えてしまいます。そのため、子どもが遊ぼうとして爆発を起こしてしまう事故が多発しています。
不発弾事故による被害者数は、1964年~2008年の間に報告されているだけで合計50,000名以上。そのうちの23%が18歳以下の子どもです。
2017年に起きた事故では、10歳の女の子が下校途中に不発弾を見つけ、現地で人気のスポーツに使うボールだと思い自宅に持ち帰り、従兄弟たちと遊ぼうとしてそれを取り出した瞬間に爆発が起きました。悲しいことにその女の子は即死、周囲にいた12名の従兄弟らも重傷を負う大事故となってしまいました。
テラ・ルネッサンスによる回避教育の開始
この痛ましい事故を調査するなかで、子どもたち、特に他団体による回避教育では対象とされていなかったい小学生未満の幼児たちへの不発弾回避教育が不十分であることが明らかになりました。
そこでテラ・ルネッサンスは、3歳から7歳までの幼い子ども達を対象に回避教育を実施することにしました。当初は3歳から5歳までの幼児のみを対象とする予定でしたが、現地のNGO・行政の要望や事前の調査の結果も踏まえ、小学1、2年生も対象に加えました。
幼い子どもに特化した回避教育は前例がないため、スタッフ総出でアイデアを出し合い、様々な分野の人々からのアドバイスを受けて、紙芝居やジグソーパズル、塗り絵などを使った、独自の教材とレッスン方法を作成しました。また、幼い子どもたちの集中力を懸念し、授業時間を45分程度に抑えました。
その結果、子ども達はみんな楽しそうに回避教育に参加し、教室終了後は不発弾に関する質問に元気よく回答してくれました。
【紙芝居を使った不発弾回避教育の様子】
紙芝居は子どもたちが不発弾を発見するところから始まり、幼児向けには大人たちに報告し事なきを得るストーリー、小学生向けには事故で怪我を負ってしまうストーリーが続く。
【爆弾と果物の塗り絵をする幼児】
色を塗る間、子どもが対象を長く観察することで、形を判別する力をつけることを目指す。
身近に被害を受けながらも、回避教育に協力する村の大人たち
この事業に取り組んできたのは、テラ・ルネッサンスのスタッフだけではありません。
ラオスでは、現地の方々と共同して、不発弾回避事業を行っています。その多くは、ボランティアとして参加してくれている村の大人たち。彼らのほとんどが、身近に不発弾事故の被害者がいて、中には自身が被害者であったり、子どもを不発弾事故で亡くしていたりする人もいます。
そうした背景を持った村の大人たちは、皆複雑な気持ちを抱えています。
それでも回避事業に参加してくれるのは、自身の経験を糧に、次世代の子どもたちを救いたいという強い意志を持っているからです。
大きな悲しみを経験しながらも、絶望することなく前を向いて、未来を見据えて動き出している。だからこそ、私たちの活動を受け入れ、積極的に協力してくれているのです。
「不発弾」ではなく、「子犬」のパズルで遊ぶことができたら。
ラオスで事業を進める弊会職員の飯村は、ラオスは良い国だ、みんなに魅力を知ってほしい、と話します。
そんなラオスへの愛を持った彼は、子どもたちに不発弾教育を実施する中でふと、
『ここの子ども達も他の地域の子ども達のように、「不発弾を見つける」お話ではなく「恥ずかしがりやのミツバチさん」等のお話を聞いてほしい。「手榴弾」と「パイナップル」が並んだ塗り絵ではなく、「バナナ」と「パイナップル」の塗り絵をしてほしいし、「不発弾」ではなく「子犬」のパズルで遊ぶことができたら、もっと楽しいはずだ』
などと考えることがあると言います。
子どもたちにとって回避教育は、不発弾のない地域に生まれていれば、そもそも受ける必要のない教育。
本当はこの時間も、音楽や体育、遊びの時間にしてほしい。
私たちスタッフは、こうしたやりきれない思いを心のどこかに抱えながらも、これが子どもたちの安全を守るために最善の方法であると考え、現地の人々と協働して事業を進めています。
回避教育は永遠に続く。それでも、諦めずにやり続ける。
一度回避教育が成功したからといって、一切の不発弾事故がなくなるわけではありません。また、今回授業を聞いた子どもたちは不発弾の知識を身につけましたが、すぐにまた彼らの次の世代の子どもたちが、何も知らずに生まれてきます。
不発弾は小さく、未だ無数に残存しています。そのため、撤去には途方もない時間がかかります。また多くを撤去できたとしても、完全に無くなったと言い切ることはできません。
だから、回避教育には終わりがなく、次世代にも、その次の世代にも、永遠に続けていかなくてはなりません。本当は今すぐにゼロにしたい被害も、少しずつ減らしていくことしかできません。だから、回避教育の時間を全て音楽や体育の時間に置き換えることは、もしかしたら不可能なのかもしれません。
それでも、諦めずに活動し続けなければ、何も変わらない。
やりきれない思いを抱きながら、気の遠くなるような道のりを、それでも歩み続ける。
それは、現地の人々が不発弾事故のない未来をはっきりと思い描き、そんな景色を目指して走り出している姿から、勇気をもらってきたから。
大人たちが次世代の子どもたちのために活動してくれていること。そして、子どもたちが回避教育を楽しんでくれていること。これが、今の私たちにとっての希望です。
そしてこの希望が、一歩一歩着実に、私たちを前進させてくれます。
【クラスター爆弾の親爆弾を再利用したプランターで遊ぶ子どもたち】
突然景色が一変することはなく、地道に、少しずつ進んでいくしかありません。その道のりは険しく、道中には悲しいことや悔しいこともきっとあるでしょう。
それでも私たちは、これからも、ラオスの人々と力を合わせ、時に勇気をもらいながら、歩み続けます。
今共に踏み出す一歩が、より希望に満ちた素晴らしい景色へとつながっていると信じて。
◆◇ 冬季募金キャンペーン2021 ◇◆ 実施中!
災害の多い日本の学校で避難訓練が実施されるのと同じように、ラオスでも日常の一部として回避教育が組み込まれ、全ての人が不発弾についての知識を持てるようになること。
そして、私たちがいなくとも、ラオスの人だけで回避教育を続けてもらえるような環境が形成されること。これが、今のテラルネが目指す未来です。
いつかこうした目標が実現し、不発弾事故の被害がゼロになる。
そんな景色に辿り着くために、私たちはこれからも、ラオスの人々と共に、活動を続けてまいります。
テラ・ルネッサンスでは、2021年11月18日から2022年1月12日まで、冬季募金キャンペーンを実施しています。アジア・アフリカの紛争被害者の方々の自立に向けた歩みを支える、弊会の活動を継続していくために、この期間に【2,000万円】のご寄付を必要としています。
彼らと共に新たな「景色」にたどり着くための支援に、寄付という形で、皆さまにご協力いただけますと幸いです。