『だから、私も。』01.ウクライナ難民を誰一人取り残さない
皆さま、こんにちは!ハンガリー事務所(ウクライナ事業)の小川さくらです。今年9月までの約1年半の間、京都事務局の啓発事業部でインターンとして勤務していました。そして今はハンガリー事務所に所属し、支援活動や広報業務等を担当しています。
今回は、冬季募金キャンペーン2022『私も、あきらめない。』期間中にお送りする特別連載ブログ『だから、私も。』の第1弾として、私たちハンガリー事務所の二人による対談をお送りします。
ウクライナ難民・避難民支援では、「ニーズ調査」「物資調達」「CSCs(生活再建支援)」「誰一人取り残さない支援」といった言葉が度々登場します。それらは一見、支援の形としては当たり前のようなことに思えるかもしれません。今回の対談では、私たちが支援の準備段階から届けるところまで込めている数々のこだわりについて話しました。特に、「誰一人取り残さない支援」をどのように模索し続けているのか、ご紹介いたします。
(活動の詳細などは、こちらより過去のレポートをご参照ください。)
対談者/
ハンガリー事務所(ウクライナ事業)所長 コーシャ バーリン・黎
ハンガリー事務所(ウクライナ事業)プロジェクトコーディネーター 小川さくら
◼︎支援対象者の方々との「距離感」を妥協しない
コーシャ:「ハンガリー事務所での最近の大きな動きと言えば、事務所の登記が完了して、腰を据えて本格的・長期的な計画を建てられるようになったこと。それから、小川さんが京都事務局から移籍して、ハンガリー事務所が2人体制になったことですね!小川さんにとって、ウクライナ事業はどのように見えていますか?」
小川:「全体を通してよく気になるのは、決まっていることが少ないことですね。京都事務局の業務では、ルーティーン業務や用意されたテンプレ、マニュアルが多くありました。それらは過去の担当者さんの仕事の結晶で、欠かせないものでした。ですがウクライナ事業では新しい試みや臨機応変な支援が多く、『それはどうするかまだ決めてないのだけど、どうしようか。ひとまずこうしてみようか。』という状況によく出会います!」
コーシャ:「そうですね、戦況が日に日に変わっていくからですね。どこでどんなことが起きたら、どこでどんな支援を必要とする人が出てくる、なんて方程式は存在しないように、不確定要素が多くあります。その中で固いルールがあると、救える人も救えなくなってしまいます。」
コーシャ:「では、支援活動についてはどうですか?」
小川:「何より、支援対象者の皆さんとの距離の近さが印象的です。車で自宅までお伺いして、会話から始める。そして、車に積んでいた物資を一つ一つ運び出して置いていく。そのように一軒一軒を回って支援を行っていることは事実として知ってはいましたが、実際に目の当たりにして、驚きがもう一段階深くなりました。」
コーシャ:「その距離感こそ、テラ・ルネッサンスの支援における重要なポイントの一つです!先ほど、固いルールは作っていないという話をしましたが、距離感に関しては明確な意志があります。一人ひとりと会い、対話し、ニーズを聞き、私たちにできる支援をする。この距離感を実現することを大切にしています。」
小川:「先日の訪問先では、目が見えない方や、足が悪い方もいましたね。ここで支援物資を配布しているので取りに来てください、ではなく、直接渡しに行きます、という距離感の重要性を感じました。」
コーシャ:「そういうことです。直接家まで届けるには時間がかかるため、一見、非効率と言えるかもしれません。ですが私は、本当に支援を届けるべき人に支援が行き届かないことの方が非効率だと考えています。支援を必要としている人に確実に支援が届く方法を選択することこそ、求められていますよね。」
小川:「まさにその通りですね。」
コーシャ:「また、家を訪問することで、新たなニーズや健康状態、生活環境の確認、その方の知り合いの人たちについての情報収集などもできます。声を上げられない人や、声が小さい人はたくさんいます。なので、助けを呼ぶ声が聞こえてくるのを待つのではなく、私たちから聞きに行くことを大切にしていきましょう。」
小川:「そうですね。テラ・ルネッサンスが大事にしている『誰一人取り残さない支援』という言葉の重みを感じます。」
◼︎「いつでも」支援対象者を受け入れることができる体制づくりを
小川:「最近は冬に向けた支援を始めていますが、その中で驚いたのは、薪づくりでした。まさか木を切り倒すところから行うとは思ってもみませんでした!テラ・ルネッサンスが他の事業地でも実践している『あるもの探し』の視点ですね。」
コーシャ:「薪ストーブ用に薪を支援していますが、値段が高くなっていますし、入手数にも限界があります。そこで、枯れ木が倒れて道を塞いでしまうことが問題になっていることに着目し、木を活用することにしました。雑木林ならたくさんありますから!木をチェーンソーで切り倒し、粉砕機で薪にしています。また、人手が必要になるので、CSCs事業として難民の方に働いてもらい、日当を払っています。」
※「CSCs事業」についてはこちらをご参照ください
◼︎単純そうに見える「物資調達」の裏側にある想い
コーシャ:「他の冬支度としては、冬服と、栄養価の高い食料の支援も進めています。冬服はなるべく友人・知人に声をかけて、譲ってもらったものを届けています。ウクライナの冬は寒さが厳しいですが、どうにか乗り越えてもらいたいです。」
小川:「厳しい時期が訪れる中、この冬も物価がまだ上がりそうなことが懸念材料ですね。」
コーシャ:「旱魃の影響も出ていますね。実際に、先日仕入れたストーブはハンガリーで購入しましたが、ウクライナのホームセンターでは似たようなものが4倍ほどの値段で売られていました。なるべく支援物資はウクライナ国内で買いたいのですが…。ちなみに、その理由は分かりますか?」
小川:「ウクライナ語で書かれているから、ではないですよね…。ウクライナ国内の経済を回すためでしょうか?」
コーシャ:「そうです!間接的にでもウクライナの個人商店の人たちをサポートしたいからです。先ほど、テラ・ルネッサンスは対話できる距離感を重要視しているという話をしましたね。買い出しにおいてもなるべく個人商店や個人事業主、農家の方と直接会い、物資を調達しています。」
小川:「個人商店が並んでいる青空市によく行くのはそういうことだったんですね!ですが、食料はハンガリーで買って持っていくことが多いですよね。なぜですか?」
コーシャ:「戦争の影響で、ウクライナでは買えないものがあるからです。」
小川:「牛乳や油、砂糖などですか?」
コーシャ:「そうとは限りません。冒頭の何も決まっていないという話ともつながりますが、ウクライナでは日によって手に入るものが異なります。牛乳が長い間ないこともありますし、一気に仕入れされる時もあります。なので、買うものを固定で決めているわけではありません。毎週ニーズを確認し、今足りないものを明日届ける、という形で食料を支援しています。」
小川:「毎週この食料のセットを届けます、という形ではニーズに沿わないのはそのような理由なのですね。」
小川:「また、支援している冬服は、友人や知人にお声がけし、集めていますよね。実際に受け取られているところも見させていただきましたが、皆さんどのような気持ちで服を譲ってくれるのでしょうか。」
コーシャ:「ウクライナの人たちを支援したい、助けになりたい、という気持ちを持っている人はたくさんいます。私の友人たちも状況を気にしていて、自分にできることを見つけて声をかけてくれます。私は、テラ・ルネッサンスは支援する団体であると同時に、皆さんの支援の気持ちの中継役でもあると考えています。」
小川:「中継役という表現、よく分かります。京都事務局では寄付の業務に携わっていたのですが、寄付はいただくものというより預かるものだと感じていました。寄付の一つ一つにその人の願いやメッセージが込められていますからね。」
コーシャ:「そうですね。気持ちを預かって、支援という形でテラ・ルネッサンスが難民・避難民一人ひとりに届けていく、ということですね。だからこそ今回の冬服の支援も成り立っています!運搬・管理の関係上、友人・知人のみから集めていますが、たくさんの方から気持ちを受け取っています。」
◼︎「誰一人取り残さない」ということ
対談を通じて、ウクライナ事業の裏側を少しお見せしました。そしてその全ての中心には、「誰一人取り残さない」ことがあります。
支援対象者の方々との距離感とは、一人ひとりの声を取りこぼさないこと。いつでも受け入れることができる体制づくりとは、支援を必要としている人を受け止めること。物資調達とは、広くたくさんの人にとって最適な支援を実現すること。
こうして、「誰一人取り残さない」支援の実現を目指しています。ウクライナおよびハンガリーで誰も取り残されることがないよう、今後も一人ひとりに寄り添い続けます。
◆◇ 冬季募金キャンペーン2022 ◇◆ 実施中!
紛争の被害を受けている彼ら・彼女らと力を合わせ、ともに厳しい状況も乗り越えたいと願っています。そのための支援に、寄付という形で、皆さまにご協力いただけますと幸いです。 スタッフ一同より
対談・記事執筆/
ハンガリー事務所所長 コーシャ バーリン・黎
ハンガリー事務所プロジェクトコーディネーター 小川さくら
執筆サポート/
啓発事業部インターン 鈴木千花