コンゴに根深く残る不処罰、人権侵害、紛争鉱物―国連レポートからわかる12年前と現在―
2010年8月、国連人権高等弁務官事務所によって「1993年3月から2003年6月の間にコンゴ民主共和国内で発生した深刻な人権侵害および国際人道法への違反を記録するマッピング活動*の報告書」が発表されました。
マッピングプロジェクトの目的は、不処罰を終わりにするための取り組みを推進し、かつ、その取り組みに寄与するため、犯された侵害の重大性を示すことにありました。
そのため、この報告書は、
① 人権および国際人道法の最も重大な侵害に関する調査リストの作成
② コンゴの司法制度が保有する能力の評価
③ 移行期正義**の適切なメカニズムに係る選択肢の策定
の3本柱で構成されています。
**移行期正義=説明責任を確保し、正義を果たし、和解を達成するために、
過去の大規模な人権侵害と向き合い対処する社会の試み
■① マッピング調査の結果
人権専門家による調査の結果、1993年3月の北キブ州のントトNtoto市場の殺戮事件以降、広範な民族紛争が勃発したコンゴでは、2003年6月までの間に少なくとも[617]もの重大な暴力事件が確認されました。
報告書では、異なる政治・歴史的背景をもつ4つの主要な時期に分けて、侵害の内容が記載されています。
各時期の特徴とリストアップされた事件数 引用: OHCHR (2010)
それらの事件の圧倒的多数は、敵対行為に参加していない民間人(主に女性と子ども)の殺人や強姦、略奪など、国際法上の戦争犯罪や人道に対する罪として裁判所に立証される可能性があります。さらに、民族集団フツへの組織的、計画的に見える攻撃の数々は、集団殺害(ジェノサイド)罪と特定されうる決定的な要素を示しています。
さらに、調査リストには、コンゴにおける特殊な暴力行為についても記載されています。それは、
・性暴力
・子ども兵の徴募と活用
・天然資源の収奪にかかわる暴力行為 です。
性暴力の規模と重大性の拡大は、主に被害者たちの司法へのアクセスの欠如と、不処罰の横行に起因しています。また、子ども兵士が犯した罪については、彼らの罪に責任のある政治的および軍事的指導者を訴追することが肝要であることが強調されています。
さらに、天然資源を支配するために繰り広げられた戦闘が、民間人に対する多数の侵害の背景となっていた事実も明らかになりました。この報告書では、コンゴの豊富な天然資源および資源セクターにおける規制と責任の欠如によって、広範な侵害とその長期化を助長した特異な力学が生み出されたと結論づけ、その責任は国内外の国営または民間企業にありうるとの判断を示しています。
そして、これら3つの暴力行為は、決して終結していません。現在のコンゴでもこれらの暴力は変わらず行使されており、多くの人々が影響を受けているのです。
■②重大な侵害に対処するための国の司法制度の既存能力に係る評価
①の調査で明らかになった617もの暴力行為、人権侵害にもかかわらず、2003年以降コンゴの裁判所が戦争犯罪又は人道に対する罪と特定して取り扱った案件は、[12件]ほどにすぎませんでした。
この報告書は、コンゴの司法の、犯罪の主要な責任者に対する無気力、そして10年以上の紛争による司法制度の構造的かつ慢性的な重大欠陥を明らかにしました。不処罰を終わらせるために明らかに不十分である点として、以下が挙げられています。
1)司法の強化に対するコンゴ当局の取り組みの少なさ
2)不処罰と闘うために司法制度に付与された少なすぎるリソース
3)裁判案件に対する政治・軍事当局からの度重なる関与(裁判の独立性の欠如を生み出す要因)の容認および寛容
4)往々にして治安部隊が行っている国際法上の多数の犯罪に対して唯一権限を有する軍事裁判所の不適当性
5)無意味で欠陥のある司法慣行
6)未成年者を対象とした司法に係る国際的な基本原則の不順守
7)性暴力事件に対する司法制度の不適当性
■③移行期正義のメカニズムに係る選択肢の策定
以上の課題から、司法的および非司法的に多様で補完的なメカニズムに導くための、移行期正義の包括的な政策の実施が不可欠であることが確認されました。
コンゴで犯された人権および国際人道法の重大かつ多数の侵害に、政府が対処できるようにするために提示された多様な選択肢には、以下が含まれています。
a)国際要員と国内要員による混合法廷の創設
b)新しい真実和解委員会の創設
c)賠償プログラム
d)司法部門および治安部隊双方の改革
(以上、報告書(サマリー日本語訳)より抜粋)
■発表から12年経った現在も山積する課題
このように、数多くの事件と不処罰を終わらせるための方策が示されたにもかかわらず、人員と資源が不足するコンゴの軍事司法当局は、これらの事件を十分に捜査し、加害者を起訴することに未だに苦戦しています。さらに、東部をはじめとする地域では現在も紛争が続いており、性暴力や子ども兵の使用といった民間人に対する人権侵害が依然として横行しています。
若干の進展は見られています。国連の報告によると、38件の戦争犯罪と人道に対する罪を優先的に裁いたことで、残虐行為に十分な注意が向けられ、2018年3月までに、1200人以上の被告人が訴追され、そのうち963人が有罪判決を受けました。武装集団(ルワンダ解放民主軍・マイマイ)の幹部やコンゴ政府軍の将校、民兵メンバー、地方議会副議長などが有罪判決を受けました。
しかし、これはマッピングレポートで挙げられた[617]の事件の一部にすぎません。民間人に対する暴力、人道に対する罪が、不処罰という文化により裁かれないままになっているのです。
忘れてはならないのが、コンゴの紛争の根本的な原因には、諸外国からの干渉や、鉱物を必要とする先進国・多国籍企業など、グローバル経済上の問題も絡んでいるということです。こうした問題の本質に目を向け、国際社会が腰を据えて取り組まなければ、コンゴの不処罰の終結と、紛争の解決を達成できないということを、この30年間の残酷な経験が物語っています。
[参考資料]
・特定非営利活動法人RITA Congo. (2020). 国連マッピング報告書:サマリー日本語訳. https://www.rita-congo.org/single-post/unitednations-mapping-report-summary-japanese
・OHCHR. (2010). DRC: Mapping human rights violations 1993-2003. https://www.ohchr.org/en/countries/africa/2010-drc-mapping-report
・Zerrougui, L. (2018). Strengthening the Rule of Law and Protection of Civilians in the Democratic Republic of the Congo. https://www.un.org/en/chronicle/article/strengthening-rule-law-and-protection-civilians-democratic-republic-congo
ウクライナ危機に関する連日の報道を受け、