【緊急支援活動レポート】支援にたどり着くのが困難な少数民族ロマ
テラ・ルネッサンスは、3月15日にウクライナ・コンゴ危機緊急支援を開始し、3月17日と4月3日にハンガリーにスタッフ(佐々木、吉田、小川)を派遣しました。現在は、ハンガリーに事務所を開設し、中長期的支援に取り組んでいます。
ウクライナ危機において、特に取り残されている人々の中に「ロマ」の人々の存在があります。ロマの人々は、多様なウクライナ難民・避難民の中でもマイノリティに位置し、避難生活において脆弱な状況にある方が見られます。今回のブログでは、このロマの方々の状況とテラ・ルネッサンスが行っている支援について、お伝えします。
■「ロマ」の人々
ロマは、インドが起源の少数民族で、現在はルーマニアやハンガリー、ウクライナ等のヨーロッパを中心に世界中で暮らしています。彼らは文化的、歴史的な面で受け入れられにくいため、社会的に弱い立場に立たされています。
また、経済的な基盤が弱い人や、パスポートなどの公的文書が揃っていない人が多く見られます。貧しいために犯罪に手を染める人も多く、一般的には厄介者扱いを受け、ジプシーと差別的に呼ばれることもあります。
■ハンガリーにいるロマの人々の状況
ウクライナ=ハンガリー間の国境を越えたばかりの地域に、ロマの人々が取り残されていることがあります。マイノリティであることにより社会的な繋がりが薄いため、首都ブダペストまで移動できなかったり、自力で宿を確保できなかったりするような状況に陥りやすいためです。また、大都市での生活費が厳しかったり、仕事に就くことが難しい(または就かない)状況にあります。
ブダペストまで移動できた人には比較的手厚い支援が提供されますが、国境付近に滞在している難民はより脆弱な状況にあります。
実際に、ブダペスト(ハンガリー首都)行きの避難列車が出ているザーホニー駅で、駅に残るロマの人々を見かけました。難民の多くは、ブダペストを経由して難民への支援が手厚い西欧へ向かいますが、ロマの人々にとってはブダペストに行くことさえ困難です。
ナブラードという小さな村には、3月末に訪れた際、ロマの方たち60人(子どもは32人)が滞在していました。体育館のような場所を、日本でいう避難所にしていました。仕事をすでに得ている方もいましたが、この先どこを本格的な滞在先にするか、まだ決められないようでした。また、村長は、「村はわずか900人のハンガリー人だけの村であるため、ロマの人々が入ることで、村の緊張感が少し高まるかもしれない」と心配していました。
【体育館に避難しているロマの子どもたち】
村長の話にあるように、ロマの人々は、受け入れ家族や地域の人々との融和や、コミュニティとのコミュニケーションが必要です。避難先ではホームステイの形での滞在が主流となっていますが、差別・偏見の対象となっているロマの人々は、ハンガリー人のコミュニティに入ると摩擦が起きやすいためです。
このような、ロマの人々が置かれている脆弱な状況を踏まえ、ロマの人々に特に支援を行うことにしました。
■支援事例①:食料や日用品の支援
ある小さな教会の神父さんが、ロマの家族を支援しているという知らせを聞き、訪ねました。教会のある村の人々は決して経済的に恵まれた様子ではなく、また、神父さんの家も教会もとても慎ましやかなものでした。神父さんによると、ザーホニー駅で、行くあてがなく困っていた家族(母親2人と子ども9人)を見つけ、家に招き入れ、住居と食事を提供しているとのことでした。しかし、毎日10人分以上の食費を賄うのは経済的に苦しいとのことだったので、状況を確認したのち、支援物資を調達し、届けました。
▼具体的に支援した物資
パン、じゃがいも、アンティチョーク、ココア、パスタ、にんじん、玉ねぎ、ジュース、石鹸、トイレットペーパー、生理用品、子ども用歯ブラシ、歯磨き粉、ガスボンベ
また、ハンガリーに逃げてきた難民が避難している施設2ヶ所に、毎週、食料や日用品、薬などを届けています。1ヶ所目・マリオポーチの民宿を避難民に開放している学童施設には、ロマの人々18人とマリウポリ近郊など戦闘の激しかった地域から逃れてきた難民11人がいます。
2ヶ所目・ホダスの教会施設には、ロマの人々が28人滞在しています。施設のオーナーが自力でこれだけの人数の難民を支えるのは難しいため、継続的に支援することを決めました。
■支援事例②:子どもたち向けにロマの楽器の提供
子どもたちも慣れ親しんだ土地や家族と離れ、新しい生活に適応しようとしています。その精神的な負担は想像以上に大きいように思われます。子どもたちの心身の健全な発達を願って、また避難生活の中で、少しでも子どもたちが楽しみを持てるように、前述のマリオポーチの学童施設に、ウクライナ語のロマの楽器や絵本を支援しました。また、前述のホダスの教会施設には、室内滑り台などの遊具とテレビを支援しました。
■支援事例③:編み物・刺繍による社会貢献と、対価としての現金給付
現在、テラ・ルネッサンスがこうしたロマの人々を対象に行っている支援には、大きく分けて①生活支援と②CSCs(Cash for Social Contributions 〜社会貢献型現金給付支援〜)*があります。先ほどご紹介した支援事例①と②は、生活支援に当たります。
後者のCSCsとは、簡潔には、対象者の主体性を最大限尊重し、その人にできる社会貢献(モノ作りやサービスの提供)の機会を提供し、その対価として現金を給付する支援のことです。対象者自身は生活費を得ることができると同時に、彼・彼女が行う社会貢献活動(ここでは、編み物・刺繍)により、さらに別の人々にモノやサービスを提供することができる取り組みです。
そのCSCsの活動に、ロマの人々も参加しています。前述のホダスの教会施設に避難しているロマの人々が、自分たちにできることとして編み物や刺繍に取り組んでくれています。ウガンダから届いたマフラーを見て、「編み物なら私たちもできる。刺繍もできる!」と言ってくれたのをきっかけに、彼女たちのCSCsが始まりました。
動画は、ウガンダの元子ども兵士から贈ったマフラーを、避難民の方に渡した時の様子です。
▼*CSCsについては以下の記事をご覧ください!
https://terra-r.jp/blog/20220520.html
▼*ウガンダからのマフラーについては以下の記事をご覧ください!
https://terra-r.jp/blog/20220415a.html
伝統的な刺繍は、今はあまりする人がいない中、比較的高齢の難民の人々が、ぜひやってみたい、知らない人にも教えられる、ということで、一緒に材料の調達に行きました。
材料を持ち帰るなり、それを待っていた他のロマの高齢女性の人々は、いきなり袋を開けて、針と刺繍糸を見ながら、「懐かしい。素晴らしい刺繍糸ね!この針の穴の大きさなら私の目でも十分大丈夫!」などと口々に話していました。また、笑いながら、すごい勢いで、「こういうふうに縫えばいいのよ」と、縫い方を話し合いながら刺繍を進めていました。
5月には、彼女たちが作ったマフラーが完成しました。ハンガリーやウクライナの国旗の色のマフラーを受け取り、その対価として現金を給付しました。
その後、彼女たちは教会施設での避難生活を約2ヶ月で終えて、首都のブダペストに移動できることになりました。避難生活が続くことに変わりはありませんが、彼女たちがブダペストで少しでもより良い暮らしができることを願っています。今回手渡した現金は、きっと新たな場所での生活に役立ててもらえると思います。
また、彼女たちには材料は渡したので、引き続き、マフラー作りや刺繍を続けてもらえたらと思っています。ブダペストでも彼女たちの状況をモニタリングしつつ、買い取れるものができたら買い取る予定です。
【ロマの伝統的な刺繍】
■平和を、すべての人へ。支援活動に、ご協力ください。
少数民族ロマの人々は、ウクライナ難民・避難民の中でも特に困難な状況に晒されています。しかし、CSCsや楽器の支援でロマの豊かな文化を見せてくれたように、決して、ただ支援を必要としているだけではありません。脆弱な部分だけに目を向けるのではなく、その人の「できること」を尊重することで、その人の自尊心を高め、周囲との関係性や繋がりを構築していくことができます。そうして、自身に内在する力を発揮し、紛争による困難を乗り越えていくことができるようになります。
以上の報告の通り、テラ・ルネッサンスは、難民(避難民)への食料・日用品の支給、炊き出し拠点の設置等の緊急支援だけでなく、避難生活が長引くことを鑑み、難民(避難民)等の生計向上のための支援も実施することを決定しました。
そのため、隣国ハンガリー・ブダペスト市に事務所を開設し、腰を据えた中長期的な支援活動を開始します。
また、ウクライナだけではなく、紛争でいのちの危機に陥っている世界中の人々への支援も必要だという観点から、紛争が続くコンゴ民主共和国(以下コンゴ)の紛争被害者の支援も強化することにしました。
これらの活動経費として、7月31日までに4,000万円のご寄付の呼びかけを開始します。
私たちの活動の目的は、最も脆弱な人々の「いのち」と「暮らし」を守ること、です。
これまでのハンガリー・ウクライナでのニーズ調査や緊急支援では、「支援の手から取り残されている人々は誰か?」ということを意識して行ってきました。
難民(避難民)と一口に言っても多様で、自力で西欧諸国まで逃れることができる人々もいれば、経済的・身体的・心理的な様々な要因で、国境沿いやウクライナ国内に留まらざるを得ない人々もいます。
後者のうち、特に「ウクライナ国内の避難民」に対しては、支援ニーズが高いにも関わらず、ほとんど援助が入っていないことが分かりました。
さらに、避難民を受け入れているウクライナ西部の地元の人々(特に高齢者)の多くは、もともと貧しい暮らしの中で生活していました。戦争が始まり、物価高騰の影響を受け、地元の人々の生活環境も悪化しています。
また、現在の状況では、避難生活が長引くことが予想されます。
緊急的な物資の支援だけでは足りず、中長期に避難生活を送るための支援(生計向上支援)も合わせて必要です。
それは、テラ・ルネッサンスが20年間、紛争や災害の影響を受け、難民(避難民)への支援を続けてきた経験が教えてくれました。
同時に、弊会の活動地であるコンゴを含む、ウクライナ以外の国・地域の紛争や、その影響を受ける人々の「いのち」が忘れられるという状況は、決してあってはなりません。
なぜなら、紛争で奪われる「いのち」や「暮らし」に、区別はないからです。
だからこそ、3月から続けてきた「ウクライナ・コンゴ危機緊急支援」の内容を新たにアップデートし、期間と目標金額を区切って再スタートします。
現地の最新状況、支援報告は、ウェブサイト、SNSを通じて随時発信していきます。
皆さまのご理解・ご協力を、どうぞよろしくお願い申し上げます。
報告/
理事長・海外事業部長 小川真吾
(4月3日にハンガリー派遣)
理事・大槌刺し子事業部長・政策提言推進室長 吉田真衣
(3月17日にハンガリー派遣)
佐賀事務所グローバル人財育成事業室・政策提言室 佐々木純徹
(3月17日にハンガリー派遣)
執筆/
啓発事業部インターン 小川さくら