『だから、私も。』03.終わりのない不発弾回避教育の道
『だから、私も。』は、冬季募金キャンペーン2022『私も、あきらめない。』期間中にお送りする特別連載ブログです。第3弾の今回は、終わらない不発弾問題を抱える「ラオス」をテーマにお届けします。戦争が終わってもなお、爆発の危険と隣り合わせで生きる現地の人々、そして彼ら・彼女らを支えるラオス事業所職員・飯村の「あきらめない」想いをお伝えします。
◼︎ラオスってどんな国?
日本では話題になることが少ないラオス。ラオスと聞いて、具体的なイメージが浮かんでくる人は少ないのではないでしょうか。
ラオスは、タイやベトナムと国境を接する、東南アジアの多民族国家です。面積は日本の本州と同じくらい。仏教や稲作の文化もあり、意外と日本との共通点が多い国でもあります。
【ラオスの地図】
「東南アジア最後の桃源郷」とも称されるほど、豊かな自然が魅力のラオスですが、その穏やかな自然の中には、今も数えきれないほど多くの不発弾が眠っているのです。農地や通学路など人々が生活するありとあらゆる場所に潜んでいる不発弾は、一体どこからやってきたものなのでしょうか。
◼︎“1000年たっても終わらないかもしれない”不発弾との戦い
ラオスの不発弾の歴史は、1964年から1973年に起きたベトナム戦争まで遡ります。
隣国のカンボジアと共に戦場となったラオスには、多くのクラスター爆弾が落とされました。クラスター爆弾とは、発射された後空中で親爆弾(容器)が割れて、中から大量の子爆弾がばら撒かれる仕組みの爆弾です。爆撃機から大量に発射することで、簡単に、広範囲を見境なく攻撃できてしまうのです。そんな恐ろしい爆弾が、戦争中の9年間で約200万トン、当時の人口で、1人あたり1トン分も落とされました。
落とされたクラスター爆弾約2億7000万発のうち、不発率(爆発しないで残る確率)は30%。この爆発しなかった爆弾が、不発弾として今も人々の生活エリアにたくさん残っています。
【クラスター爆弾の不発弾。テニスボール程の大きさをしています。】
これまで多くの撤去団体が撤去を続けてきましたが、2021年までの25年間に撤去されたのは、わずか2.1%にあたる170万発のみ。このペースで撤去を続けると、単純計算で撤去完了までに1191年もかかることになります。
◼︎子ども達を不発弾から守る、回避教育
住宅街、農地、通学路、森…
不発弾は、文字通り日常のありとあらゆる所に潜んでいます。子どもたちが痛ましい事故に遭うことも少なくありません。
特に、テニスボール程の大きさをしている子爆弾は、何も知らない子どもにとっては楽しそうな遊び道具に見えてしまいます。爆弾とは知らずに遊んでいる最中、地面に落とすなどの衝撃を加えると、子爆弾が爆発し、中にある無数の破片が飛び散って身体に突き刺さってしまいます。
子どもたちが正しい知識を得て自分の身を自分で守れるようになるために、テラ・ルネッサンスではオリジナルの「不発弾回避教育」を行っています。他の団体では前例のない幼児にも対象を広げ、3歳〜7歳の子どもたちに不発弾の危険性を伝えています。
遊び盛りで元気いっぱいの小さな子どもたちに、難しい話を理解してもらうのは容易な事ではありません。そこで、テラ・ルネッサンスでは工夫を凝らし、歌やポスター、ジグソーパズル、紙芝居、ステッカーなどを用いた独自のレッスンを開発しました。
楽しみながらじっくりと対象を観察するカリキュラムのおかげで、子どもたちはだんだん不発弾を見分け、「怪しいものは触らない」というメッセージを守れるようになりました。嬉しいことに、先月も1人の女の子が不発弾を見つけたと先生に伝えてくれ、事故を未然に防ぐことができました。
◼︎不発弾がある前提の、限られた生活
不発弾は人々を殺傷するだけでなく、食料の確保や経済発展にも影響を及ぼしています。
ラオスでは昔から稲作や焼畑などの農業が盛んでした。農業は、ラオスの人にとって数少ない現金収入を得る術の一つです。
しかし不発弾は、焚火の熱や農具が当たった刺激などで簡単に爆発してしまいます。そこに本当に不発弾が埋まっていてもいなくても、可能性がある限り、肥沃な土地を最大限活かすことができないのです。
十分な農業ができず少ない現金収入しか得られない人の中には、危険な土地に踏み入りざるをえなかったり、金属を売るために不発弾を分解し、事故に遭ったりする人もいます。
最近では、ウクライナ危機によってガソリンの値段が通常の2.5倍ほどに値上がりしました。公共交通機関が発達しておらず、食料も輸入に頼っているラオスでは、追い打ちをかけるかのように生活費が高騰しています。安全に、安定した現金収入を得る術が求められています。
【洋裁事業の様子】
そんな事情を鑑みて、テラ・ルネッサンスでは、洋裁やキノコ栽培、養蜂など、土を耕さずに安全に収入を得られる事業を展開して生活向上支援を行っています。熱心に頑張っている受益者の中には、なんと支援開始前の年収を1か月で稼げるようになった人もいます。
ラオス事業を担当している弊会職員の飯村は、「生活費が高騰する大変な状況でも、ラオスの人々には悲壮感がないのです。自給自足をし、少しずつでもいいから現状を変えようとする前向きな精神を持ち合わせている。それが彼ら、彼女らの強さだと感じています」とラオスの人々の魅力を語ります。
テラ・ルネッサンスは、今後も植林やエコツーリズムなどの更なる活動を展開し、多様な収入源を確保することで、地域住民が柔軟に収入を得られる未来を目指しています。
◼︎ゴールが見えないからこそ、この一歩を踏みしめる
ラオスに埋まっている不発弾は、プロがどれだけ一生懸命作業しても一朝一夕で撤去しきれる量ではありません。また、多くを撤去できたとしても、その小ささゆえに完全に無くなったと言い切ることは難しいのが現状です。
不発弾が無くなったと言えない限り、回避教育にも終わりがありません。今授業を受けている子どもたちは自分の身を守る知識を身に着けたかもしれませんが、またすぐに何も知らない世代の子どもたちが生まれてきます。生活向上支援を通じて一度安定した収入も、今回のウクライナ危機のような外的要因の影響を受ける可能性もあります。
こうした現状を受けても、「あきらめる、という選択肢は、そもそも私の中にはありません」と飯村は話します。「今後1000年、2000年不発弾があっても、子どもたちはこの地で生きていきます。のびのびと遊べていたはずの時間を回避教育に充てなければいけない現状や、不発弾撤去にかかる途方もない時間に、もどかしさを感じることも多々あります。しかし、それでも諦めずに活動を続ければ、何かが変わると私たちは信じています。日本での地震の避難訓練のように、不発弾を見たらラオスの人々がすぐに適切な行動をとれる未来を目指して、今日も回避教育を続けています。」
この途方もなさに、どれだけ自信を無くしても、気が遠くなったとしても、誰一人、取り残したくない。そんな思いを胸に、これからもテラ・ルネッサンスはラオスの人びとと手を取り合い、何世代にもわたって活動を続けていきます。
いつか回避教育の必要がなくなり、子どもたちが自由にラオスを走り回れる日まで、私もあきらめない。
◆◇ 冬季募金キャンペーン2022 ◇◆ 実施中!
紛争の被害を受けている彼ら・彼女らと力を合わせ、ともに厳しい状況も乗り越えたいと願っています。そのための支援に、寄付という形で、皆さまにご協力いただけますと幸いです。 スタッフ一同より
記事執筆/
啓発事業部インターン 三木遥佳
執筆サポート/
啓発事業部 鈴木千花
報告/
海外事業部ラオス事業 飯村浩
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参考:https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/mail/bn_298.html (最終閲覧日:2022/11/16)