【キャンペーンブログ】「小川真吾へのインタビュー”今こそLRA紛争に終止符を打つ”」 / 紛争を、終わらせる。vol.7
これまで6回にわたり子ども兵に特化して解説してきたキャンペーンブログも今回で最終回を迎えました。これまでのブログを通して、子ども兵に関する基本的な部分から、彼ら・彼女らが抱える課題や社会復帰を達成するために重要な要素などをお伝えしてきました。
今回のブログでは、同じくウガンダで活動している田畑勇樹が小川真吾へインタビューし、ウガンダ共和国(以下、ウガンダ)やコンゴ民主共和国(以下、コンゴ)での事業について今後の展望などを聞きました。
〇プロフィール
●小川真吾(おがわしんご) / 理事・ 海外事業部長
1975年、和歌山県生まれ。学生時代、カルカッタでマザーテレサの臨終に遭遇、マザーテレサの施設でボランティア活動に参加。大学卒業後は、青年海外協力隊員としてハンガリーに派遣、旧ユーゴ諸国とのスポーツを通した平和親善活動などに取り組む。2005年より、ウガンダに駐在し、元子ども兵社会復帰支援プロジェクトを実施。帰国後、2011年3月から2023年10月までテラ・ルネッサンスの理事長を務める。2023年11月からは理事および海外事業部長として、ウガンダ、コンゴ、ブルンジでの元子ども兵や紛争被害者の自立支援に関わりながら、テラ・ルネッサンス全般の経営を担っている。著書に『ぼくは13歳 職業、兵士。』(合同出版)、『ウガンダを知るための53章』(明石書店)がある。
●田畑勇樹(たばたゆうき) / ウガンダ事業カラモジャ事務所長
1998年大阪府出身。京都大学農学部食料・環境経済学科卒業。高校生の頃に見たテレビ番組をきっかけに、アフリカ地域に関心を持つ。大学の休学期間中に、認定NPO法人テラ・ルネッサンスでウガンダ駐在インターンを経験。その後、ルワンダの大学へ留学し平和学を学ぶなど、アフリカ地域で1年間を過ごす。2022年3月に大学を卒業し、同年4月よりテラ・ルネッサンスに新卒で入職。現在はウガンダに赴任し、駐在員として、北東部カラモジャ地域における灌漑農業を通した自立支援に従事。
〇コンゴでの動員解除支援について
(田畑)テラ・ルネッサンスは、2005年からウガンダ北部で元子ども兵の社会復帰支援を開始しましたが、なぜこのタイミングでコンゴでの動員解除(※)の支援に着手したのですか?
※動員解除・・・「現役の戦闘員を正規の軍隊やその他の武装勢力から正式かつ統制的に除隊すること」
第59回国連総会事務総長の告示
(小川) 当初、ウガンダ北部では多くの元子ども兵が帰還しており、私たちは彼ら・彼女らの社会復帰支援に力を入れてきました。しかし、LRA(Lord’s Resistance Army:神の抵抗軍)は、ウガンダ政府との停戦合意が結ばれたのち、コンゴや中央アフリカ共和国(以下、中央アフリカ)に逃れ、今もなお子どもを誘拐し、住民を虐殺しています。この問題を解決するには、ウガンダだけでなく、コンゴや中央アフリカでの活動も必要だと感じていました。
しかし、当時はリソースも限られており、コンゴやブルンジでの既存事業を継続しながら、不安定な情勢のコンゴ北東部や中央アフリカで新たな活動を始めるのは困難でした。
ウガンダでの社会復帰支援だけでは、紛争の根本的な解決にはなりません。子ども兵や紛争被害者を減らすには、紛争そのものを終わらせる必要があると考え、「社会復帰支援に加えて、他にできることはないか」と模索し始めました。
そんな思いからできたのが『ぼくらのアフリカに戦争がなくならないのはなぜ』です。この本では、紛争の根本原因である外部からの武器・資金・情報支援などの問題を明らかにし、多くの人に関心を持ってもらいたいと考えています。
日本でも創設者の鬼丸が全国で公演を行ったり、SNSなどを通した啓発活動をしたりして日本国内で関心を寄せてくれる人たちがいます。
私たちは、LRA紛争を終わらせるにはLRAを解体する必要があると考えてきました。そして今、LRAが弱体化し、解体できるチャンスが到来しました。まさに今こそ紛争に終止符を打つ最大のチャンスであり、コンゴでの動員解除支援に着手したのです。
〇これまでの活動を通して印象に残っていること
(田畑)約20年にわたり元子ども兵の社会復帰支援をしてきた中で、なにか印象に残っていることはありますか?
(小川)印象に残っていることは大きく分けて2つあります。
1つ目は、自立を果たした元子ども兵の姿です。ウガンダ北部で行っている職業訓練では、洋裁/服飾デザインや木工大工のクラスがあります。私たちの支援によって、元子ども兵たちが自発的に自立していく姿を見ると、支援の価値を実感します。
例えば、3期生のラケル・ルシーは職業訓練を卒業した後、自分で洋裁学校を始め、約150人の生徒に教えています。中には無償で教えている生徒もいるそうです。自分の生活が安定したら、次は他の人をサポートしたいという気持ちに心があたたかくなりました。
また、8歳で誘拐されLRAに拘束されたジョセフ・オコトは、16歳で帰還後、職業訓練を受け、今ではテラ・ルネッサンスの施設で洋裁講師として活躍しています。
このように長年支援を続けていると、過去に支援を受ける側だった元子ども兵が、次の元子ども兵や地域で困難を抱えている人々を支援する側になっているという場面を見ることができます。これが一番嬉しいことです。
これからも支援を継続し、いつか元子ども兵やウガンダ北部住民が自立して生活できるようになってほしいです。テラ・ルネッサンスがいなくなったとしても、ウガンダで困っている人がいたら、ウガンダ人同士で支え合っていくことがコミュニティレベルではできるようになってきています。
【ウガンダ北部グルのメインマーケットにお店を構える卒業生】
2つ目は、活動を継続することで得られた知見です。活動には成功も失敗もありますが、その過程で「一人ひとりにとって最適な支援とは何か」を考え、実践から多くのことを学びました。試行錯誤の結果、自尊心の向上が社会復帰に大きく貢献することが分かりました。
自分自身の生活をコントロールしたり、意思決定に参加したりすることで、自尊心が高まるのです。支援においても、一人ひとりの選択を尊重し、寄り添うことの大切さを学びました。これらの学びは、私自身にとっても、テラ・ルネッサンスが今後事業を展開していく上でも、非常に重要です。
長年現場で活動を続けることで得られた知見を、今後は他の事業や政策提言に生かし、テラ・ルネッサンスの価値を高めていきたいと考えています。
〇小川からあなたへのメッセージ
(田畑)支援者の皆さんに何か伝えたいメッセージはありますか?
(小川)偉そうな言い方になるかもしれませんが、支援者の皆さんにお伝えしたいのは、2つの意味で当事者意識を持ってほしいということです。
1つは”問題の”当事者意識です。私たちの取り組む課題が 遠く離れた場所のことであったとしても、私たちの生活と無関係なことはありません。紛争鉱物や資源問題の話があるように、日々の私たちの暮らしとアフリカの紛争は繋がっています。
もう1つは、”支援者としての”当事者意識です。私たちはご支援をいただく皆様と一緒に、1つの大きなチームとして問題に取り組むという意識を持っています。問題解決に取り組む地球市民の一人として一緒に活動できたらとても嬉しく思います。
〇最後に
これまで全7回に及ぶキャンペーンブログ「紛争を終わらせる」をご覧くださりありがとうございました。このブログを通して、子ども兵やテラ・ルネッサンスの取り組みについて少しでも知り、関心を持っていただけたら嬉しく思います。テラ・ルネッサンスは2005年からウガンダやコンゴで活動を続けてきましたが、ようやくLRAの最終的な解体と紛争の終結が現実のものになろうとしています。2023年からコンゴでもLRA兵士の動員解除と社会復帰の支援も開始しましたが、それも資金がなくては継続することができません。
ウガンダやコンゴでの紛争はどこか遠い国の私たちとは無関係の出来事だと思うかもしれませんが、同じ地球に生きている以上私たちは影響し合って生きています。小川の言葉にもあったように、ひとり一人が当事者意識を持って、対岸の火事ではなく自分事として、ともに世界のことについて考え続けることができたらと思います。
テラ・ルネッサンスはこれからも「すべての生命が安心して生活できる社会(世界平和)の実現」を目的に活動していきます。ともに平和をつくりましょう。
これまでの記事は以下をご覧ください。
vol.1「知っていますか?子どもが兵士にされる世界のことを」
vol.2「元子ども兵が抱える課題とウガンダ北部住民への影響」
vol.3「テラ・ルネッサンスの元子ども兵社会復帰支援とその成果」
vol.4「社会復帰達成のカギとオコト・ジョセフの事例」
vol.5「LRA紛争の終結に向けて」
vol.6「紛争終結へのビジョンと残された課題」
〇終わらない紛争に終止符を。そのためにーーー
テラ・ルネッサンスでは、2024年11月13日(水)~2025年1月15日(水)まで、冬季募金キャンペーン「紛争を終わらせる。」を実施しています。
皆さまからお寄せいただいたご寄付は、今、世界で起こっている紛争を一つでも終わらせるために、そして、紛争の被害を受けた方々の自立支援をはじめ、テラ・ルネッサンスのすべての事業で、大切に使わせていただきます。
どうか、紛争を終わらせる活動に、力を貸してください。
▼冬季募金キャンペーン2024▼
[実施期間]11/13 - 1/15
[目標金額]30,000,000円
詳細はこちら:https://www.terra-r.jp/tokibokin2024.html
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インタビュー協力 /
理事・海外事業部長 小川真吾
記事執筆 /
海外事業部 ウガンダ事業
カラモジャ事務所長 田畑勇樹
啓発事業部
インターン 村添心愛