【キャンペーンブログ】 「元子ども兵社会復帰支援とその成果」/紛争を、終わらせる。vol.3
前回のブログで示したような様々な課題を抱える元子ども兵に対し、テラ・ルネッサンスは2005年より、職業訓練、基礎教育(読み書き、計算など)、心理的ケアなどを包括的に行う社会復帰支援を開始しました。元子ども兵社会復帰支援プロジェクトの目標は「3年間で元子ども兵が社会復帰するために、必要な能力を身につけ経済的に自立すると共に、地域住民との関係を改善しながらコミュニティで安心して暮らせるようになる」ことです。
これまでに、合計251名の元子ども兵が支援を受け、社会復帰を果たしました。ここからは、テラ・ルネッサンスが行う社会復帰支援の具体的な内容、また19年間の支援の中で得られた成果についてお伝えしていきます。
〇社会復帰支援の4つの柱
①BHN (ベーシック・ヒューマン・ニーズ) 支援
支援対象の元子ども兵は、プロジェクト前半の1年半、施設にてフルタイムで職業訓練に参加します。訓練期間中、彼らとその家族は生計を立てるための収入などを稼げないため、テラ・ルネッサンスが毎月の家賃を支援し、食費と医療費をクーポンとして配布しています。
現金ではなくクーポンとして配布している理由は、食費・医療費などの生活必需品を購入する目的以外で使われることがないようにするためです。クーポンは、施設の周辺の露店や診療所など、指定の場所のみで使えるように地域住民の協力を得ています。また、診療所で治療できない病気や怪我は、総合病院などで治療してもらえるように調整しています。
元子ども兵の中には、戦場で強制結婚を強要された兵士との間に産まれた子どもたちを抱えて帰ってきた元少女兵も多くいます。状況に応じて、彼女たちの子どもの学費もテラ・ルネッサンスが支援し、本人が訓練に集中できる環境を整えています。
②能力向上支援
プロジェクト前半の職業訓練は、元子ども兵が収入を得て経済的に自立するために必要な技術を習得することを目的に行っています。具体的には木工大工・洋裁/服飾デザインの二つのクラス (事業開始当時は手工芸クラスもあったが、ウガンダ北部全体の市場ニーズ低下に伴い廃止)があり、元子ども兵は希望のクラスを選択し、職業訓練を受けています。
実際に収入向上活動を始める際に必要な、基本的なアチョリ語や英語の読み書き・計算を学ぶ基礎教育、ビジネス講習のクラスも週に1回開講されています。
③心理社会支援
「元子ども兵」と一概に言っても、ひとり一人が抱える悩みやトラウマの程度は様々であり、必要に応じて個別のカウンセリングを実施しています。週に1回、音楽・伝統ダンスのクラスを開講し、元子ども兵自身が歌や演劇、そしてダンスを実践しています。普段は心を閉ざしがちですが、伝統ダンスのクラスの時は笑顔を見せる元子ども兵も少なくありません。
さらに、平和教育の授業も週に1回開講し、感情のコントロール、周囲とのコミュニケーション、問題解決など、元子ども兵の精神的な安定を図るとともに、施設を出た彼ら彼女らがコミュニティに戻っても、周囲とより良い関係性を築けるような取り組みを行っています。過去に卒業した元子ども兵の中には、「平和教育の授業が最も印象に残っている」と答える者もいます。
④収入向上支援
①〜③の支援活動はプロジェクト前半の1年半の間にテラ・ルネッサンスの施設で行われます。1年半の職業訓練を終えた元子ども兵は施設を卒業し、町に出てひとり一人が学んだ技術を生かして収入向上活動を開始します。
テラ・ルネッサンスでは、プロジェクト後半の1年半の間、必要な備品や資機材の供与、開業する店舗代の補助、原資金の貸付などを行い、彼ら彼女らの収入向上活動を支援しています。卒業後も定期的に店舗を訪問し、ビジネスに関する助言や指導を行います。
その他の特記事項として、テラ・ルネッサンスは元子ども兵だけでなく、ウガンダ北部地域の最貧困層にも同様の職業訓練を提供しています。LRA紛争によるウガンダ北部住民の被害は大きく、家族を失い、教育機会を奪われ、貧困に苦しむ最脆弱層が多くいます。
停戦合意のあった2006年に基本的ニーズを満たすことができない北部地域の貧困層の割合は、60.7%でした。元子ども兵の社会復帰と同時に、地域の最貧困層、戦場で生まれた若者たちも支援していくことは、LRAの元子ども兵と北部の紛争被害者の平和的共存を促すことにも繋がっています。
〇支援による成果
①収入の向上
テラ・ルネッサンスの支援を受けた元子ども兵は、受け入れ時はほとんど収入がありませんでした(平均月収148円)。しかし、3年間の支援後には平均月収が31倍(4,655円)に増加し、絶対的貧困の水準を超えて、地域住民の平均月収とほぼ同等になりました。さらに支援後の8年間、自立した生活を維持し、平均月収は8,280円に増加しました。この額は、同時期の地域住民の平均月収の約1.6倍に相当し、周囲の貧困層を支援する元子ども兵も現れました。支援完了後も元子ども兵が、自らの力で、さまざまな困難に直面しながらも、レジリアントに生計を維持してきたことが伺えます。
②近隣住民との関係性の改善
近隣住民との関係性も徐々に改善し、差別や疎外感を覚えずに生活できる元子ども兵の割合は、支援前の26%から支援後には84%に増加しました。
彼ら彼女らの中には、自らが身につけた洋裁や木工大工の技術で得た収入によって、家族や周囲の人を支援することができるようになった者も多くいます。また無償で地域の若者たちに学んだ技術を伝える者もいます。このようにして、多くの元子ども兵が周囲との関係性を取り戻しつつあります。
③自尊心の向上
さらに特筆すべき点は自尊心の向上です。テラ・ルネッサンスの社会復帰支援を通して、多くの元子ども兵が過去のトラウマと向き合い、現在の自分を受け入れることができるようになっています。帰還当初は「自分には何もできない」と精神的に不安定な状態にありましたが、現在は手に職をつけ、周囲の人々を支援することができるようになり、「生きる価値を見いだせた」と答える元子ども兵もいます。
〇まとめ
テラ・ルネッサンスは、2005年から元子ども兵の社会復帰を支援するプロジェクトを展開し、これまでに251名が社会復帰を果たしました。この支援は①生活必需品や医療支援を含むBHN支援、②職業訓練や基礎教育による能力向上、③個別カウンセリングや平和教育を通じた心理的支援、④収入向上支援の4つの柱で構成されています。
支援を受けた元子ども兵は、平均月収が31倍に増加し、地域住民とほぼ同等の水準に到達。近隣住民との関係も改善し、自尊心を取り戻す成果が得られています。また、テラ・ルネッサンスでは、元子ども兵だけでなく、ウガンダ北部地域の最貧困層の受け入れも行い、元子ども兵と近隣住民の関係性の改善を促進しています。
次回のブログでは、何が社会復帰達成に影響を与えるのかについて、2005年から元子ども兵の社会復帰支援に取り組む小川真吾の論文と元子ども兵であるオコト・ジョセフの事例を挙げながら解説していきます。
〇終わらない紛争に終止符を。そのためにーーー
テラ・ルネッサンスでは、2024年11月13日(水)~2025年1月15日(水)まで、冬季募金キャンペーン「紛争を終わらせる。」を実施しています。
皆さまからお寄せいただいたご寄付は、今、世界で起こっている紛争を一つでも終わらせるために、そして、紛争の被害を受けた方々の自立支援をはじめ、テラ・ルネッサンスのすべての事業で、大切に使わせていただきます。
どうか、紛争を終わらせる活動に、力を貸してください。
▼冬季募金キャンペーン2024▼
[実施期間]11/13 - 1/15
[目標金額]30,000,000円
詳細はこちら:https://www.terra-r.jp/tokibokin2024.html
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記事執筆 /
海外事業部 ウガンダ事業
カラモジャ事務所長 田畑勇樹
啓発事業部
インターン 村添心愛