【キャンペーンブログ】「社会復帰達成のカギとオコト・ジョセフの事例」 / 紛争を、終わらせる。vol.4
前回のブログで挙げてきたように、テラ・ルネッサンスの元子ども兵社会復帰支援は一定の成果を上げてきました。それでは、何が社会復帰達成のカギになったのでしょうか。
今回のブログでは、社会復帰達成に影響を与えたものについて、2005年から元子ども兵の社会復帰支援に取り組む当会理事・海外事業部長の小川真吾の論文と、受益者から支援者へと変化した元子ども兵オコト・ジョセフの事例を挙げながら解説していきます。
〇何が社会復帰達成に影響を与えるのか (小川 論文より)
ここでは、小川が執筆した論文「脆弱な人々に対する援助アプローチに関する一考察 ―ウガンダ北部における元子ども兵の社会復帰を事例として―」の内容から、社会復帰を達成するために何が影響を与えるのかについて解説します。
まず、テラ・ルネッサンスの社会復帰支援を卒業した元子ども兵たちを対象に調査を行いました。「元子ども兵」と一口に言っても、その状況は様々だからです。例えばLRA(武装勢力)での拘束期間の長さ、戦闘の影響による障害の有無、性別、親の有無、基礎教育を受けたことがあるか、などです。また、同じ職業訓練を受けていても、職業技術のレベルやビジネス運用能力は人それぞれです。他にも自尊心、家族からの支持の有無、復讐心など、元子ども兵を取り巻く様々な要素(変数)を組み合わせて調査・分析を行いました。
当初、私たちは社会復帰のためには拘束期間の長さや頼れる親・家族の有無などが影響するのではないかと思っていました。しかし、分析を進めていくと、意外な事実が明らかになりました。
【導き出された結論】
① 過去の傷ではなく、未来の能力を重視する視点
分析の結果、「職業技術」と「小規模ビジネスの運用能力」が社会復帰に対し大きな影響力を持っていることが分かりました。LRAでの拘束期間や身体的障害の有無、復讐心、親の有無といった要素はほとんど社会復帰の達成に影響しませんでした。
つまり、彼ら・彼女らの脆弱な側面だけに注目するのではなく、ひとり一人が持つ能力に注目し、それを向上させていく援助アプローチが、社会復帰達成のカギのひとつであるということです。実際に、職業訓練やビジネススキルを身につけることで、多くの元子ども兵が経済的に自立し、地域社会に貢献しています。
②「選択の自由」を尊重する視点
もうひとつ重要な社会復帰達成のカギは、「選択の自由」を尊重することによる「自尊心の向上」です。分析の結果、特に自尊心の向上が社会復帰の達成にとって最も大きな影響力を持っていることが明らかになりました。
子ども兵として戦場にいた彼らは、常に誰かの命令に従い、自分の意思で何かを決める自由を奪われてきました。長年「選択の自由」を奪われたことで、「自分には何もできない」と、自尊心が非常に低い状態にあったのです。
テラ・ルネッサンスでは、訓練開始前にどの職業訓練コースに進むのか、本人に決めてもらいます。他にも、卒業後の進路やビジネスの始め方も、彼ら・彼女らの意思を尊重しながら一緒に考え、決めていきます。こうした「自分で選択する」という経験を積むことが、自尊心を向上させ、社会復帰達成につながるのです。
〇洋裁講師オコト・ジョセフの事例
【受益者に洋裁を教えているジョセフ】
受益者から支援者へと変化したオコト・ジョセフの事例を紹介します。
ジョセフは現在、個人のキオスク(小売店)を経営しながら、平日はテラ・ルネッサンスの施設で洋裁クラスの職業訓練講師を務めています。ジョセフ自身も、元子ども兵社会復帰支援の3期生(2008〜2009)として職業訓練を受け、卒業後は町で洋裁店を開業して働いていました。
2012年のある日、ウガンダ事務所長のジミーから「洋裁講師としてテラ・ルネッサンスに力を貸してくれないか」という依頼を受けたことをきっかけに、訓練生ではなく講師としてテラ・ルネッサンスに戻ってくることになりました。洋裁の技術には定評があり、現在(2024年)に至るまで12年間にわたって講師を務めています。
テラ・ルネッサンスの職員として働き始めた当初は、大勢の前でなにかを教えるという経験がなく、不安な気持ちが大きかったそうです。しかし、働き始めて4ヶ月経つころから少しずつコツをつかみ、人にうまく技術を伝えることができるようになってきました。
ジョセフは、このようなことを話してくれました。
「私が洋裁師になって経済的に自立できたのはテラ・ルネッサンスのおかげです。私が学んだ洋裁の技術や、平和教育クラスで教わった人との接し方を新たに帰還した元子ども兵たちに伝えていきたいです。テラ・ルネッサンスは受益者に対して、大きなインパクトを与えています。ここで学んでいる多くの生徒は元子ども兵で紛争を経験しており、家族を失った人もいれば、個人の精神状態が安定せず、職業訓練どころではない人もいます。そしてお金を稼ぐ手段がなく、貧しい状況に陥っています。しかし、困難を乗り越え、ここでの訓練を受けた人々の多くが洋裁師として成功し、収入を得ています。テラ・ルネッサンスの支援のおかげで、子どもの学費の支払いや、食料の購入ができるようになりました。」
ジョセフが指導した生徒の中には、次の元子ども兵や地域住民に技術を伝えている者たちがいます。ジョセフが教えた後も、彼ら彼女らは自ら勉強してどんどんレベルアップしているようです。
今後の目標を尋ねると、「生徒ひとり一人の習得スピードが違うことを理解する必要があります。黒板に書いたことをすぐに実践できる人もいれば、そうでない人もいます。だから、ひとり一人に寄り添いたい。 私の仕事は、彼ら彼女らを優秀な洋裁師にすることです。それと同時に人としても自立して、コミュニティで生きられるような心を育むことです」と話してくれました。
かつての元子ども兵が、新たに戻ってくる元子ども兵を支える。このようにして、すべての元子ども兵が社会復帰できるように、テラ・ルネッサンスは皆様と共に活動を続けていきます。
〇終わらない紛争に終止符を。そのためにーーー
テラ・ルネッサンスでは、2024年11月13日(水)~2025年1月15日(水)まで、冬季募金キャンペーン「紛争を終わらせる。」を実施しています。
皆さまからお寄せいただいたご寄付は、今、世界で起こっている紛争を一つでも終わらせるために、そして、紛争の被害を受けた方々の自立支援をはじめ、テラ・ルネッサンスのすべての事業で、大切に使わせていただきます。
どうか、紛争を終わらせる活動に、力を貸してください。
▼冬季募金キャンペーン2024▼
[実施期間]11/13 - 1/15
[目標金額]30,000,000円
詳細はこちら:https://www.terra-r.jp/tokibokin2024.html
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記事執筆 /
海外事業部 ウガンダ事業
カラモジャ事務所長 田畑勇樹
啓発事業部
インターン 村添心愛