「それでも、一歩を。」— カンボジア

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「それでも、一歩を。」— カンボジア

コロナ禍以前は、多くの観光客で賑わっていたアンコールワットやトンレサップ湖。豊かな自然と歴史のある国、カンボジア。しかし、そのひとつの歴史として終わらせることのできない、負の遺産があります。それが地雷です。

1960年代後半のベトナム戦争に巻き込まれて以来、約30年以上に渡る戦闘状態が続いたカンボジアでは「悪魔の兵器」と呼ばれる地雷が数多く使用されました。その数は、推定400万~600万個に及ぶとされ、埋設密度は世界一と言われています。

テラ・ルネッサンスが活動するバッタンバン州でも、未だにたくさんの地雷が埋まっています。そして、戦争の爪痕は、地雷だけではありません。

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【地雷原の様子】

戦争以前は、豊かな熱帯雨林が広がっていたバッタンバン州。そんな豊かな自然も切り開かれ木材となり、戦争中の軍事費として他国に売り出されていきました。そして、そこで自然と共に生活していた村人たちの暮らしは破壊され、生活に困るようになってしまいました。

 

そこに、近隣諸国のタイや中国から、ある誘いがきました。

「いい収入になるから、換金作物を作らないか?」


※換金作物:農家が自分の家で食べるためではなく、売ってお金にすることを目的に生産する作物のこと。トウモロコシやキャッサバなど。キャッサバはイモの一種で、タピオカの原料になる。

 

生活に困っていた村人たちは、その誘いに乗りました。そうして、残っていた貴重な熱帯雨林は開墾され、換金作物を栽培するための畑に姿を変えました。

 

土地を持つ村人たちは、換金作物であるキャッサバやトウモロコシの栽培をし、土地を持たない村人たちは、地主の畑で日雇い労働として働き、バッタンバンには貨幣経済が広まりました。

新しい生活の影


村人たちの生活は一変しました。しかし、単一の換金作物の栽培で生活を成していくことには、リスクもありました。というのも、天候不順や自然災害が起きれば、同じ作物を栽培していれば、全滅してしまいます。

また、換金作物の大規模な栽培には、苗木や農薬を購入し、労働者への賃金を支払う必要があります。もちろん、そこには資本が必要です。それを賄うために、土地を持つ村人は銀行から借金をするのです。

最初は、タイから大型のトラックが買い付けに来て、いい値段で作物を買ってくれました。しかし、同じ作物を栽培する人が増えると、供給過多が起き、値段は自然と下がっていきました。それが、バッタンバンの2015年です。2016年頃から、多くの村人たちが借金を抱えることになりました。

借金を返すため、そして家族を養うために、この地域の多くの人々はタイに出稼ぎに行っていました。しかし、新型コロナウイルス感染症の影響で、タイ国境は封鎖され、タイで働いていたカンボジア人たちは帰国を余儀なくされました。

そして、新たに出稼ぎにいくことも出来ず、さらに、2020年10月には、10年に一度と言われる大洪水が起きました。度重なる天災で、彼らの生活も農作物も影響を受け、村人たちの生活はさらに厳しくなりました。

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【洪水で浸水したキャッサバ】


テラ・ルネッサンスは、地雷被害者や地雷原付近に住む人々に対し、広大な土地がなくても、手足が不自由でも、自宅の庭で出来るような家庭菜園や家畜の飼育(※家畜銀行)を提案し、実施してきました。

家庭菜園も、家畜の飼育も、すぐに収入が上がるわけではありません。軌道に乗るまで時間がかかります。そのため、なかなか賛同を得られないこともありましたが、それでも一緒に取り組んできてくれた人も多くいました。

※家畜銀行とは、テラ・ルネッサンスから支援対象者の方に家畜の貸し出しを実施し、その家畜に子どもができたら、提供した家畜と同じ数の家畜を、返却してもらうシステムです。返却された家畜は、次の村人に提供し、また同様に繁殖してもらいます。一度家畜を返却すれば、その後生まれた家畜の子どもは飼育した村人が飼い続けることができます。

 

そして、テラ・ルネッサンスがサポートしていた村人たちの中には、新型コロナウイルス感染症や洪水による影響を受けながらも、その危機に対して柔軟に対応できている人たちがいます。

 

家庭菜園では様々な農作物を育てているため、例え国境が閉鎖されて出稼ぎに行けなくても、タイから食べ物が入ってこなくても、食うには困りません。

 

牛や豚、ニワトリ、ヤギなど、様々な家畜を育てているため、一種類が病気になっても、他の家畜で収入はカバーできます。洪水の被害を受けた家畜もいましたが、避難させることも出来たため、農作物のような全滅も免れました。

 

イェン・ハンさんの一歩。

そしてその成果は、この世界的危機の中で発揮されました。その1人がバッタンバン州カムリエン郡で生活するイェン・ハンさん(50歳)です。

ハンさんは地雷の被害に遭い、右脚の膝から下は義足をつけて生活をしています。テラ・ルネッサンスでは2017年から支援しています。

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【イェン・ハンさん(左)にインタビューする現地スタッフ(右)】

ハンさんは最初に会った時、不機嫌でどこかちょっと怖ささえも感じる印象でした。しかし、人里離れた畑への訪問者に少し嬉しそうでした。そして、思いがけずたくさんの話を聞かせてくれました。

 

ハンさんの家の周りには畑が広がっています。バナナが生い茂り、様々な果物がなっています。しかし、アクセスの悪さからマーケットに売りに出せていませんでした。そのため、ハンさんと奥さんは娘をカンボジアに残し、タイへ出稼ぎに行っていました。

 

しかし、タイに出稼ぎに行っても、貯蓄できるほどではなく、換金作物の栽培で失敗して残った借金があり、生活はよくなりませんでした。あるのは借金だけ。

私たちも本当に大丈夫だろうかと心配になる程でした。そんな心配を吹き飛ばすかのように、ハンさんは、私たちの家畜銀行のサポートのもと、一生懸命生活の再建に励みました。ヤギ小屋を自分で拡大したり、広い土地を利用してヤギや鶏、アヒルの飼育。そして、野菜栽培も開始しました。

 

以前は多額の借金をして、キャッサバやトウモロコシなどの換金作物の栽培に依存した生活を送っていましたが、現在ではヤギ、鶏、アヒル、野菜の栽培からの収入を得ることができています。ヤギは、1,400ドルの収入につながっており、広い土地を活用してさらに拡大していく計画だそうです。

また、私たちがサポートを開始した後に、カンボジア政府から障害を持つ退役軍人への補償金も支払われるようになりました。ハンさんは今の心境をこう語ります。

「以前は、キャッサバやトウモロコシの栽培に失敗し、何をしていいか分かりませんでした。お酒もたくさん飲みましたし、何よりも、不機嫌で誰とも話したくありませんでした。しかし、テラ・ルネッサンスの支援を受けてから農業技術を学び、ヤギやアヒルを飼育し始めました。今は、自分で作った野菜を自分たちで食べたり、近所の人にあげたりしています。タイへの出稼ぎをやめ、換金作物の栽培もやめました。そうしているうちに、私の心は幸せを感じられるようにり、人生に希望を持てるようになりました。」

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【ハンさん(左)と弊会スタッフ江角(右)家畜小屋の前にて】

ハンさんは、本来は素敵な笑顔のフレンドリーな人だったのです。それがこんなに絶望するほどの状況に追い込まれたのは、地雷のせいだけではありません。グローバル自由主義経済の中で生まれた歪みの中に、落ちてしまったのです。

  

本来のハンさんに戻ると、周りの人たちとの関係性も良くなり、お金だけでない関係も取り戻すことができました。昨年から続くコロナ禍と、さらに10月に発生した大洪水にも、ハンさんは負けません。この状況でも以前の様な絶望ではなく、希望を持って生きていく姿があります。

 

現在テラ・ルネッサンスには、取り組みに参加したいという村人たちからの希望が殺到しています。しかし、その希望に応えるだけの資金が十分ではありません。

 

私たちは、このコロナ危機をチャンスと捉えて、グローバル経済に依存するのではなく、その地域の中で経済が回り、さらにそれが環境にも配慮した持続可能なものになるよう、取り組みを強化してまいります。

ぜひ、私たちの活動に、寄付という形で、ご協力いただけますと幸いです。

夏季募金キャンペーン2021『それでも、一歩を。』実施中!

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テラ・ルネッサンスでは、7月15日から8月31日まで、夏季募金キャンペーンを実施しています。カンボジアの紛争被害者の方々の支援に加えて、ウガンダ、ラオス、コンゴ、ブルンジの元子ども兵や貧困地域で生活する方々の支援のために、この期間に【1,200万円】のご寄付が必要としています。

 

もともと紛争や災害によってたくさんの問題を抱えている人々に対し、新型コロナウイルス感染拡大による影響は、そんな人々のささやかでも希望を持った一歩を踏みにじるような、本当に厳しく、苦しいものです。

 

それでも、彼ら・彼女らも、私たちも、「一歩」を踏み出し、積み重ねていくことができる。テラ・ルネッサンスが20年間活動する中で見てきた希望が、私たちにそう信じさせてくれます。

ぜひ、その「一歩」に寄り添う支援に、寄付という形で、ご協力いただけますと幸いです。

 

認定NPO法人テラ・ルネッサンス

理事長 小川 真吾

 


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▼テラ・ルネッサンス夏季募金キャンペーン2021についてはこちら
https://www.terra-r.jp/kakibokin2021.html

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